「2ヵ月ほど前から、年初と比べて1.5~2倍も客足が増えました」

 ある私鉄沿線に完成した建売り一戸建て住宅の営業マンは、意気揚々とこう語る。

 人気住宅街として名高い中野区に立地し、駅から徒歩12分、2階建て4LDK、土地・建物面積85~90平方メートルというこの物件は、「土日ともなればどの時間帯も家族連れで満員」(営業マン)という盛況ぶりだという。

 物件価格は約5800万円。昨年後半から本格化した不動産不況で住宅需要が激減する以前なら、同程度の条件の物件は軽く6000万円台半ばを超えていた。それを考えれば、確かに物件価格は格段に安くなっている。

 とはいえ、この不況下で6000万円近い物件を買えるサラリーマンは、そう多くはなかろう。実際、業者による「投げ売り」が相次いだ後も、相対的に価格水準が高止まりした中野区の物件は、今年の春先まで閑古鳥が鳴いていた。

 そんなトレンドが、何故かここに来て一変しているというのだ。いくら巷で「景気底入れ観測」が広まり始めたとはいえ、不動産人気がそれほど顕著に復活しているとは、考えにくい。

 実際、国土交通省が8月下旬に発表した地価動向報告によれば、全国の地価は、高度利用地でさえ下落を続けている。「景気底入れ感」が広まり始めた今年4月1日と直近7月1日を比較すると、東京圏では調査対象65地区のうち、「横ばい」がわずか1地区に過ぎない。残りの地区は、依然として顕著な下落傾向にある。

 そんな首都圏の人気住宅街で、にわかに「住宅ブーム」が起きているのは、いったい何故なのか?

 中野区で25年間営業を続ける建売り業者は、こう明かす。

  「現在の住宅ブームは、景気回復に連動したものではありません。実は、局地的な需給逼迫によるものです。人気住宅街では、住宅購入希望者の数に対して、新規物件数が減り続けているのです」

 前述のように、需給逼迫の最大の理由は、地価が値下がりしたぶん物件価格が落ちついたことである。中野、杉並、練馬といった城西・城北地区の人気住宅街では、業者による土地の仕入れ価格が、年初から2~3割下落したエリアもある。

 その結果、「条件と価格のバランスがよい物件が増え、これまで値下がりを待っていたお客の需要が復活した」(建売り業者)のだ。