気が遠くなるほど膨大なデータを瞬時に処理して“答え”を出すAI。そのデータ処理を支えるプロセッサーの性能も飛躍的に高まっている。

高性能化に比例して、プロセッサーの電力消費量や発熱量も爆発的に高まり、“プロセッサーの固まり”ともいえるデータセンターの運用に大きな影響を及ぼしている。中でも、大きな問題の一つが、「いかに効率よくプロセッサーを冷やすか」ということだ。

「10年前までは、データセンターのサーバーラック1台当たりの電力消費量はせいぜい2~3kWでした。それが、AIに対応する最新の高性能プロセッサーを搭載するラックでは200kWと、実に約100倍になっています。その結果、ラック1台当たりの熱密度も10年前の100倍近くまで上がっているのです」

そう語るのは、データセンターに詳しい東京大学大学院情報理工学系研究科教授の江崎浩氏である。

従来の「空冷」方式ではもう対応できない

これほど爆発的に熱密度が高まると、もはや従来の冷却方式では、サーバーを十分に冷やすことができない。

「日本のデータセンターの9割以上は、空調でラック内の温度を下げる空冷方式を採用していますが、それでは全然足りません。海外では、空冷よりも効果的に冷却できて、エネルギー効率が良い水冷へのシフトが急速に進んでいます」と江崎氏は説明する。

水冷の二大潮流といえるのが、プロセッサーに熱交換器をじかに取り付け、その内部に冷却液を循環させて熱を奪う「DTC(Direct-to-Chip)」方式と、サーバー全体を非導電性の液体に丸ごと浸してしまう「液浸冷却」方式だ。

どちらも、「風(気体)」ではなく「水(液体)」で冷やし、プロセッサーからじかに熱を奪うので、空冷よりもはるかに効率が良い。

「かつては、漏電やショートの原因となるので、データセンターに水を取り込むことは忌み嫌われていました。しかし、今日のプロセッサーは水冷を前提としなければならないほど熱密度が高まっているので、それに対応した水冷技術の研究開発も進み、信頼の置けるソリューションが確立されています。『水は危ない』という先入観を捨て、積極的に水冷に切り替えなければ、熾烈なビジネス競争に敗れてしまうでしょう」と江崎氏は語る。

AIの急速な普及による熱処理問題。データセンター「水冷化」はもはや絶対に避けられない理由江崎教授は「空冷から水冷への転換は不可欠」と強調する

冷却方式が空冷のままでは、プロセッサーの高性能化に対応できない。データセンター事業者にとっては、将来の需要を取り込みにくくなるので、死活問題となるはずだ。

一方、自社でデータセンターを運用する事業会社にとっても、空冷から水冷への転換に乗り遅れると、AIやデータの利活用で他の企業の後塵を拝することになりかねないので、速やかな対応が求められそうだ。

江崎氏は、「例えるなら、F1レースのようなもの。水冷で高性能のエンジンを積んだレーシングマシンに、昔ながらの空冷で性能の低いマシンが挑んでも、勝つことは絶対に不可能です。競り合うためにはマシンのスペックを上げる必要があり、そのためには水冷化が欠かせないのです」と語る。

パブリッククラウドの普及によって、日本でも外部のデータセンターを利用する企業は増えているが、いまだ9割近くの日本企業は、自社でデータセンターを運用している。

今後のビジネスの発展を見据え、自社データセンターの水冷化に向けて積極投資を行うか、水冷化をいち早く進めている外部のデータセンターを利用するか、経営判断を迫られることになりそうである。

「水冷」方式に切り替えるときの注意点

一方、データセンター事業者にとっては、水冷化の波にどれだけ早く乗り、将来の需要をどれだけ取り込んでいけるかが、今後の成長の鍵を握る。

新たに建設するデータセンターは、最初から水冷に対応した施設・設備を整えることになるだろうが、問題は既存のデータセンターをどうするかだ。

AIの急速な普及による熱処理問題。データセンター「水冷化」はもはや絶対に避けられない理由江崎 浩(えさき・ひろし)
1987年九州大学工学部電子工学科 修士課程了。同年4月東芝入社。米ベルコア社、米コロンビア大学客員研究員などを経て、98年10月より東京大学大型計算機センター助教授、2001年4月より東京大学大学院情報理工学系研究科助教授。05年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。MPLS-JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長、日本データセンター協会副理事長・運営委員会委員長、デジタル庁初代Chief Architect。工学博士(東京大学)。主な著書は『インターネット・バイ・デザイン: 21世紀のスマートな社会・産業インフラの創造へ』(東京大学出版会)、『サイバーファースト インターネット遺伝子が創るデジタルとリアルの逆転経済』(インプレスR&D)など。

江崎氏は、「既存のデータセンターを空冷から水冷に切り替える場合、配管はほぼ問題ありませんが、設備が重いので床荷重を上げる改修工事が必要となる場合があります。一方、水冷は空冷に比べて消費電力が少ないので、ランニングコストは一定程度抑えられるのではないでしょうか」と語る。

初期投資や運用コストを十分考慮し、将来の収益計画をしっかりと描いた上で、切り替えを行うことが大切だといえそうである。

データセンターを水冷化するためのソリューションは、多くの企業が提供している。まずは、じっくり比較検討して、自社の成長戦略に合ったソリューションを選定したい。