大規模リコール(回収・無償修理)問題を契機に、手のひらを返したように、米国の各方面で広がるトヨタ批判。しかし、これを単なる「トヨタ叩き」と捉えるのは間違いだ、と米国を代表する自動車ジャーナリストのポール・アイゼンスタイン氏は語る。「トゥ・リトル、トゥ・レイト(不十分で遅すぎる)」。米国人が最も嫌う対応法をトヨタは取ってしまっていると指摘する。(文/ジャーナリスト、ポール・アイゼンスタイン Paul Eisenstein)

米国人はなぜトヨタを叩くのか?日本人が軽視する不信増幅の本当の理由
10年前、ファイアストン社製タイヤを装着したフォード「エクスプローラー」のリコール問題に関わった企業幹部は、匿名を条件に、筆者に「(トヨタは)時間をかけすぎた」と語った
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 企業の長期的なイメージや株価に与える影響の大きさという点で、トヨタ自動車が現在抱えている安全性の問題に比肩する例は容易に思い出せない。短期的であれ、かつての高い評判に深刻なダメージが生じるのはまず確実であり、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ヒュンダイ(現代自動車)といった競合他社は、何とかこの隙に乗じようと躍起になっている。

 米国では何事につけてよく「スコアボードなしに野球の結果は分からない」と言うが、この問題も同じだ。相当な期間を経なければ、世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車を襲っている今回の問題のすべてを把握することは容易ではないだろう。

 経緯を振り返れば、この問題が広く米国社会一般に“可視化”されたのは、昨年11月25日のことだと思う。「アクセルペダルが戻らなくなりクルマが急に暴走してしまう」という“疑い”を解消するため、トヨタは(8車種・約420万台を対象に)ペダル無償交換などの改修に応じると発表した。むろん、それ以前にも多くのメディアでその”疑い”が盛んに報道されていたが、米国の一般市民の多くにはそれまで他人事だったろう。

 その当時“リコール”ではなく“自主的な無償改修”の経営判断を下したその是非を今ここで問う気はないが、問題はその後トヨタが世間に広がる疑いを半ば追認するような形で事態がじわじわと深刻化していったことだった。

 2ヵ月後の1月21日には、ペダルの戻り方に問題があるとして8車種・約257万台を対象にリコールを発表。さらにリコール対象車種の販売・生産を一時停止すると発表した。米国トヨタ自動車販売のジム・レンツ社長はその後、顧客を安心させようと「問題はすでに特定され(中略)可能な限り迅速にこの解決策を実行に移す」と米国内の放送メディアで繰り返したが、小出しにされる情報の中で不安を抱くなと言われても、多くの米国民には受け入れがたいのは当然だ。複数の識者が、トヨタの対応は「Too little, Too late(不十分で遅すぎる)」であると警鐘を鳴らしたのもうなづける。筆者もそこに米国民の不信感が増幅された最大の理由があると思う。

 10年前、やはり大きな話題となった、ファイアストン社製タイヤを装着したフォード製SUV「エクスプローラー」のリコール問題に関わった企業幹部も、匿名を条件に、「(トヨタは)時間をかけすぎた」と語った。