日本の分譲マンションに新たな客層が加わった。それはここ10年で富を蓄えた“大陸の中国人”だ。彼らによる住宅購入がここ数年で顕在化し始めている。
「ベイエリアの某マンションでは、最終購入者の名簿からゾロゾロと中国人の名前が出てきました」と販売に携わった不動産会社幹部A氏は振り返る。このマンションは06年前後に売り出されたもので、人気の集中する住戸は抽選が行われた。「絞り込まれてもこれだけ名前が出てくるということは、分母にもそれなりの数の中国人が購入を希望していたことを示すのではないか」と推測する。
マンションの販売センターでも中国語が飛び交うようになった。品のいいビジネスマン風もいれば、モデルルームでさんざん騒いで帰っていく成金風の一団もいる。これらの現象は、07年秋から不動産のミニバブルが崩壊して以降、いっそう顕著になった。
「あの物件では50~60戸のまとめ買いがあったそうだ」――。まことしやかに流れる業界内のうわさ。その旺盛な投資意欲は大手不動産の営業マンB氏の証言にも明らかだ。「彼らはドカンとキャッシュです。だから、こちらも“顧客情報の詳細”など細かいこと訊きません。当然、お客様も勤務先なども明かしません」。
だが、どうやってこの大金を手に入れたのかはわからない。熱気を帯びた商談は一瞬フリーズするものの、売ってはならないという法律はないし、何より彼らのバイイングパワーには抗えない。「最近は中国人が購入するケースが非常に目立つようになりました」と不動産流通の調査研究を行う、ある財団法人のC氏も指摘する。
ヒト、モノ、カネが中国に集中する今、個人もまたここ10年で飛躍的にライフスタイルを変化させた。中国大陸からのニューリッチには、中国の外資導入政策とともに規模を拡大させた製造業者も多い。設備投資をした後は機械が仕事をしてくれる、という工場経営者は金銭にも時間にもゆとりがある。すでに上海に複数のマンションを持ち、年間3回の海外旅行は当たり前、ブランド品にもそろそろ飽きた、という人も珍しくはない。
「こうしたニューリッチが税金逃れに東京や大阪の不動産を買う一方で、政府幹部の個人的な資金が流れ込んでいる可能性があります」と、投資コンサルティング会社社長D氏は話す。