【第18回】 2009年01月22日
マクロ経済学の大原則を無視した
「定額給付金」懐疑報道に感じる違和感
――定額給付金の議論に欠かせないマクロ経済学の知識
先日、とあるニュース番組から「定額給付金」に関してコメントを求められた。そのやり取りの中で、果たして給付金の政策的意味合いや効果をどれほどテレビ側が理解しているのかとやや不安になった。
そこで、今回はマクロ経済学の基本のおさらいである。好景気時には、特に経済学のお話など必要ない(むしろ経営戦略論が必要とされる)が、不景気時こそ経済学が注目を集めるものである。
不景気な時こそ、
政府の役割は重要
不景気時に政府が財政出動や減税により景気を刺激するのは経済学の基本である。定額給付金は、個人の消費欲を喚起し人々にお金を使ってもらうことで、景気にプラスのインパクトを与えようとするものなので、それ自体はさほど問題のある政策ではない。
マクロ経済学の基本を思い返すと、一国の経済の基本形は Y=G+I+C、つまり、国民所得は、政府購入(公共投資など)、民間投資、そして消費の合計であることを思う出す方も多いだろう。政府は右辺を増やすような政策を導入することで、景気への刺激を与えようとする。右辺のうち、政府が直接いじることができるのはG(政府支出)の増加である。そこで、普段は悪者扱いされがちな公共投資も、不景気時ばかりは賛同を得やすくなる。
なお、政府購入金額の増加が国民所得に与えるインパクトは、乗数効果によって大きくなる。たとえば、日本における限界消費性向が0.6ならば、政府購入が1増えれば、1÷(1-0.6)=2.5となり、国民所得は2.5増える計算となる。この乗数効果の影響は大きい。
(乗数効果の直観的理解は、たとえば私がパンの購入量を増やすと、パン屋は小麦の購入量を増やすというように、連鎖的に購入金額が増えていく様子である。また、限界消費性向とは、所得が1増えた時に、どの程度人々が消費を増やすかの割合である)
ただ、いくら乗数効果があるとはいえ、このような100年に1度の不況下では、G(政府購入)を増やすだけではなく、C(消費)やI(民間)も増やしたいところである。政府が民間企業や個人の投資や消費行動を直接変化させることはできないが、減税で消費を刺激することは可能であり、投資に関しても投資減税は効果的である。
実際、右辺ではC(消費)の占める割合が最も大きいので(日本では50%超、アメリカでは60%超)、ここを最も刺激したい。
「減税も給付金もなし」では、
景気は上向かない
不景気時には減税策を採るのが王道である。実際最近では、イギリスで日本の消費税に当たる付加価値税の税率の引き下げが、そしてアメリカやドイツでは所得税の減税が発表されている。
一方、日本では、住宅ローン減税の拡充や中小企業に対する特別税制措置などは行われる予定だが、消費税や所得税の引き下げという話にはなっていない。その代わりに定額給付金を実施するという方向である。この国民にお金を配るという政策は、減税以外での消費刺激策となりうる。定額給付金に似たようなものは、去年アメリカでも実施され、アジアでは台湾や韓国でも行われる。
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著者プロフィール
- 保田隆明
(ワクワク経済研究所LLP代表)
1974年生まれ。早稲田大学商学部卒業。リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&A、資金調達アドバイザリーに従事後、SNSサイト運営会社の起業、ネットエイジキャピタル執行役員を経て現職。著書に『M&A時代 企業価値のホントの考え方』(ダイヤモンド社)、『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)など多数。現在は、経済・金融分野をわかりやすく解説する活動をテレビなど各種メディアで展開中。保田氏ブログ
この連載について
仕事と両立しながら大学院に通い始めた保田隆明が、大学院で学ぶからこそ見えてきた新しい視点で、世の中の「経済・金融ニュース」をわかりやすく解説する。
経済・金融のグローバル化に伴い、企業を取り巻く環境は複雑化。ビジネスパーソンにとっても、経営戦略とファインスに関する知識は不可欠になっています。本書では、資金調達やM&Aなど、経営戦略とファイナンスの関係を基本から徹底解説します。 2100円(税込)
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