欧州でこの冬流行しているインフルエンザで、「タミフル」が効かない耐性ウイルスの拡大が報告されている。

 欧州疾病対策センターの発表によると、A(H1N1)型のインフルエンザで2004年から昨シーズンまでに、タミフル耐性のウイルスは1%未満しか報告されていなかったのに対し、今シーズンは14%からタミフル耐性のウイルスが発見されている。

 「あまりタミフルが使われていないノルウェーでの耐性ウイルスの検出率が70%だったことなど、不可思議なことが多い」(業界関係者)と、現在のところ発生の原因は、はっきりしていない。

 ただし、このインフルエンザも「リレンザ」など日本で流通している他のインフルエンザ治療薬は有効だから、日本での対策の立てようはある。

 2007年3月、厚生労働省が十代へのタミフルの投与を禁止したことから、かつての平均の約2倍、50万人分を売り切る“特需”に見舞われたリレンザの供給元のグラクソ・スミスクライン。在庫がカラになった昨シーズンの反省を生かして、今シーズンは6倍の300万人分のリレンザを確保している模様だ。

 耐性ウイルスが出ているとはいえ、大半のインフルエンザには有効で実績もあるタミフルを供給する中外製薬の計画は600万人分。リレンザは、特殊な器具を使って吸入するため、小さな子どもや呼吸器に異常がある人は使えないことを考えれば、タミフルとリレンザの供給バランスは妥当なところに落ち着いたといえるだろう。

 だが、新型インフルエンザのパンデミック(爆発的感染)向けの備蓄となると話は別だ。現在、日本では、2005年12月に定められた「新型インフルエンザ対策行動計画」に基づいて、インフルエンザ薬が国や地方自治体によって備蓄されている。

 かつて9割以上のシェアを握っていたこともあって、タミフルは2800万人分が備蓄されている。一方、長いあいだ“忘れ去られた薬”だったリレンザは、わずか60万人分。今年度の補正予算でリレンザ75万人分が追加される見通しだが、それでも全体の5%に満たない。タミフル耐性の新型インフルエンザへの備えとしては脆弱な構造なのだ。

 他国と比べて相対的に少なくなりつつある備蓄量の議論に加えて、どの薬を持つかについても再考が必要だろう。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 佐藤寛久)