会社はいったい誰のものなのか、と問いたくなる上場企業のトラブルがまた発生した。舞台はジャスダック証券取引所に上場する中古厨房機器のテンポスバスターズだ。
事の発端は、実質オーナーであり社長職にあった森下篤史氏個人がテンポス株約20%を担保に株の信用取引を行ない、運用に失敗したことにある。2月には証券会社に預けていた担保株式が市場で売却されそうになったことから、会社が、社長である篤史氏に対して2億円を融資した。
同社は「大株主が変更になって経営戦略が大きく変わってしまったり、市場売却で株価が下落して、他の株主に迷惑をかけたくなかった」と説明するが、個人資産管理会社分を含めて株式の44%(4月以降は35%)を保有するオーナー兼社長が、自分に対して融資するのは、株主平等の原則に反する可能性がある。「上場会社を私物化している」と非難されても仕方がない。
おまけに2億円の返済期限の5月末を過ぎても返済はまだである。現社長である森下和光氏(篤史氏の弟)は、「篤史氏が売却予定の不動産がなかなか売れないのが未返済の理由。近く500万円だけでも返済してもらう」という甘い対応に終始、身内をかばっているのは明らかだ。
さらに18日時点で仰天プランが浮上してきた。7月末開催予定の株主総会で篤史氏が取締役を辞任し、億単位の退職金をもらうというものだ。退職金は2億円の返済に充当する予定だ。篤史氏は現在、取締役グループ長という肩書だが実質的なトップ。退任後もグループ長という肩書だけは残しておき、院政を敷くと見られる。こうした会社私物化が続けば、株主代表訴訟に発展する可能性すら指摘されている。
会社は究極的には株主のものである。ところが実質オーナーであるからという勝手な論理を振りかざしていると、上場企業という社会の公器の価値は大きく毀損することになるだろう。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 野口達也)