政府の追加経済対策中、住宅ローン減税の拡充案が早くも物議を醸している。今年で廃止が予定されていた減税制度を、「最大控除可能額を過去最大水準まで引き上げる」と打ち出したのだ。
住宅・不動産業界から表向きは歓迎する声が上がるが、本音では「間接的に消費マインドを上げることには役立つだろうが、実質的な効果は小さい」(大手不動産会社幹部)との声が早くも漏れている。
現行の住宅ローン減税は、ローンの上限を2000万円とし、1~6年目は年間最大20万円(残高の1%)、7~10年目は同10万円(残高の0.5%)を所得税額から差し引く仕組みで、控除額は最大で160万円となっている。
これに対し、現在検討が進められている案では、(1)ローンの上限額は5000万~6000万円、(2)税額控除の上限は600万円程度、(3)控除期間は10年程度、(4)控除率はローン残高1%程度――というのが有力という。
数字だけ見れば確かに過去最高の大盤振る舞いだが、問題は入居後10年目でもローン残高が6000万円残っているという高額物件を取得し、加えて控除対象となる所得税を年間60万円以上納入している世帯がどこまであるのかということだ。
野村證券金融経済研究所の福島大輔シニアアナリストの試算によると、「ローン部分だけでも、9000万円借りて住宅を購入しないと、10年間フルに減税の恩恵は享受できない。このローンの返済に年間必要な金額350万円から逆算すると、年収で1700万~2000万円台の世帯がこれに当たる」という。
なにもしないよりはましだが、過去最大の減税規模とぶち上げてもカネ持ちしかフルに恩恵を受けられないのでは、大風呂敷を広げ過ぎといわれても仕方ない。
ちなみに、2007年度の国土交通省の調査では、年間のローン返済額の平均は分譲住宅で136万円。住宅購買層の中核は依然、30代の団塊ジュニア世代であり、世帯の平均年収は550万円程度である。
消費者による住宅の購買意欲は今、どん底にある。今年度の住宅着工件数は昨年度をさらに下回り「年間100万戸を切るかもしれない」(ハウスメーカー首脳)との悲観論まであるなか、幅広い世帯でメリットが感じられる制度でなければ、住宅不況の下では焼け石に水で終わるだろう。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 鈴木洋子 )