夢の国産資源として関心が高まっているメタンハイドレートが、実用化に向け着実に前進している。
メタンハイドレートとは、「燃える氷」とも言われ、天然ガスの主成分であるメタンが、高圧・低温の海底下や凍土下でシャーベット状に固まったもの。
1990年代には日本の領海内に、日本で消費される天然ガスの約90年分に相当する埋蔵量があるとの研究報告も発表され、「日本資源大国論」が盛り上がることもあった。だが、それは遥か彼方の深海の世界。数年前までは科学的な研究対象でしかなく、メタンハイドレートの採掘や商業利用は夢の領域だった。
しかし、ここへきてメタンハイドレートを見直す気運と期待が急速に高まってきた。背景にあるのは、経済環境の変化、豊富な資源量、技術の進歩の3点に集約される。
まず、ここ数年来の資源の逼迫、世界中で起こった資源ナショナリズムへの高まりが、国産資源の夢を現実に変える後押し材料となった。
日本近海に想像以上の資源が眠っていたことの再認識も、夢の実現度を高めた。2007年に経済産業省が東部南海トラフ海域(静岡県~和歌山県沖)を本格調査したところ、日本の天然ガス消費量の14年分(東京ガスの販売量の約40年分)にあたる約1.1兆立方メートルの埋蔵量が確認された。採掘しやすい濃集帯に限っても同7年分はあると見られている。「日本近海の一部を調査しただけなのに、こんなにも良質な資源があったことに改めて驚いた」(研究者)という。
そして、ここへ来て技術面でも“吉報”が相次いでいる。昨年カナダで行なわれた実証実験では、従来の石油・天然ガス採掘技術の応用である「減圧法」による採取に成功。3月上旬にはロシアのバイカル湖で清水建設が、北見工業大学やロシアの研究機関と共同で、湖底(水深400メートル)の表層面から連続回収する実験に成功するなど、実用化へ向けて着々と開発が進んでいる。
こうした実績を基に昨年、国は2018年度をメドにメタンハイドレートの実用化技術を確立し、2019年からは商業生産を開始する方針を打ち出した。
メタンハイドレート採掘に携わる技術者は「10年前には雲をつかむような話だったが、今では実現可能な目標だと考えている」と語るが、こうした「手ごたえ」を関係者全体で共有しつつあるのだ。
もちろん、メタンハイドレートの実用・商業化を狙っているのは日本だけではない。じつは、日本が火を着けたかっこうで、メタンハイドレートに関する開発が世界で始まっている。世界的な資源争奪戦の高まりも手伝って、特に中国、韓国、インドなど資源に乏しい国々が積極的で、技術競争が激化してきた。
もっとも、国産資源という観点から言うなら、メタンハイドレートが日本の領海内にある限りは国産技術にこだわる必要はない。採掘技術の競争が世界中で行なわれて、メタンハイドレートの実用化が早まるのなら歓迎すべきことである。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木豪)