5月21日。これまで殺人や強盗など重大事件のみに適用されていた「被疑者国選弁護制度」が、法定刑の上限が懲役・禁固3年を超える罪(たとえば窃盗や傷害など)にまで拡大された。

 この1ヵ月間で、拡大前に比べて国選弁護の対象事件数は約10倍の7615件に増えた。日本司法支援センター(法テラス)は「今後も、この程度の数で推移していくだろう」と見る。

 国選弁護案件は、私選に比べて報酬がきわめて低く、かつてはなり手がなかなか見つからないものだった。しかし、対象数が10倍になったにもかかわらず、特に混乱なく弁護士が見つかっているというのだから驚きだ。

 理由のひとつには、対象拡大に先行して国選弁護人の報酬を段階的に見直してきたことが挙げられる。しかしもうひとつ、忘れてはならないのが、仕事に困る弁護士が増えているという点だ。

「低収入にあえぐ歯科医が問題になっているでしょう? 弁護士だって他人事ではないですよ」

 ある弁護士がこう苦笑するように、2002年の司法制度改革によって、それまで年間500人程度だった司法試験合格者が2000人以上に増えた。一方、当初の目論見ほど裁判件数は増えず、弁護士需要は広がっていない。その結果、就職先にあぶれる弁護士すら出てきている。

 今年3月、日本弁護士連合会(日弁連)はとうとう、年間3000人の合格者を目標としている政府に対し、現状の2100~2200人を維持するように求める提言を出した。開業したり、小規模事務所に勤める弁護士だけが厳しいわけではない。就職先として人気のある某大手渉外弁護士事務所すら、最近は経営難がささやかれる始末。企業法務部に対する売り込み、報酬ダンピング競争はかつてないほど激しくなっている。

 不況と急激な法曹人口増員のダブルパンチによる苦境が当面続きそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 津本朋子)

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