長引く景気低迷で給料やボーナスが減り続けているなか、意外にも5万円を超える高級炊飯器の売れ行きが好調だ。
炊飯器の年間販売台数は約590万台(2009年度予測)で、そのうち5万円超の炊飯器の販売台数は、06年度の65万台から09年度予測では90万台を超え、100万台に手が届きそうな勢いだ。いまや高級炊飯器マーケットが出現したといっても過言ではない。
このマーケットをつくり出したのが三菱電機。きっかけとなったのは06年に売り出した炊飯器「本炭釜」で、ご飯に均一に圧力をかけ、おいしいご飯が炊ける炭釜を採用した。炭釜はすべて職人による手彫りのため、販売価格はなんと10万円。GfKジャパンの調査によれば、当時の炊飯器の平均価格は約1万6000円であり、6倍強の価格である。
だが、かつて炭釜で炊いたご飯を食べた団塊の世代の琴線に触れ、ロングセラーとなっている。
さらに、09年2月に約8万円で発売した三菱電機の「蒸気レスIH」も絶好調だ。発売から10ヵ月でじつに4万台を売り上げた。
特徴は、炊飯器につきものの蒸気口がないこと。狙いは、おコメを加熱した際に出る蒸気を内部で循環させ、火力を調整することなく連続でおコメを加熱し、おいしいご飯を炊けることだ。また、炊飯器の蒸気は、長年主婦の不満のタネであった。
だが、そうはいっても5万円を超える炊飯器はいかにも高い。なぜここまで売れるのだろうか。その理由を纐纈潤子・GfKジャパンホームアプライアンスマネジャーは、「不況による巣ごもり消費」と分析する。景気低迷で、外食を減らして内食を増やす家庭が多いが、せめて毎日食べるご飯ぐらいはおいしいものを食べたいという欲求の表れということだ。
日立製作所や三洋電機など競合の追随も相次いでおり、この活況はしばらく収まりそうもない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)