トヨタ自動車のハイブリッド車新型プリウスの人気がすさまじい。6月は2万2292台を販売、1年半、自動車販売トップを独走した軽自動車を抜き首位に。受注は20万台に達し、工場はフル稼働生産になった。

 だが、華々しい舞台の裏側で手放しでは喜べない状況もある。

 まず、周知のとおり納車期間が非常に長い。すでに7月1日以降の注文分は来年3月上旬以降の工場出荷予定で、実際に購入者の元に届くのは4月にずれ込む可能性が否めない。そうなると、年度末が期限となる新車買い替え補助制度を活用できない可能性が発生。補助をきっかけに新車購入を考える人にとっては悩みの種だ。

 こうした事態を受け、新車買い替え補助制度の延長のうわさも出始めた。しかし経済産業省は「延長は予算があって初めてできるもの。そう簡単ではない」。

 車検切れを機にプリウスへ買い替える人は多いが、納車の前に前車の車検を迎えてしまうというケースも続出している。新車が近々手に入るのを承知で車検を通すか、ディーラーが用意した代車、もしくはレンタカーで過ごすかなどいくつかの選択肢がある。車検費用の一部負担、長期で代車を手配してくれるディーラーもあるが、一律ではない。

 客の不安を受けて販売現場も混乱している。前述の理由から個々の客に合わせてスケジュール設定をする必要があるからだ。また、新型プリウスはトヨタ初の全4系列販売で客の奪い合いも起きている。その内訳は、トヨタ店27%、トヨペット店28%、カローラ店21%、ネッツ店24%で、ディーラーの数を考慮するとよりいっそう、旧型プリウスを売っていたトヨタ店、トヨペット店のほうが、販売力があることがわかる。

 ただ、販売店は、受注があっても納車できないのでは現金収入がなく苦しい。プリウス効果で戻った客足を、いかに他車種に拡販するかが課題だ。

 新車がなかなか手に入らないなか驚くのが、ほとんど未使用の中古車が早くも出回っていること。中古車情報サイトを見ると、どのグレードもカーナビなど装備が付いている点を加味しても、新車の価格より高く、いわばプレミアが付いている状態だ。「発表前に注文されたクルマが中古車市場に出ている。とにかく新車よりも早く納車できるのがプレミアの理由。軒並み高値が付けられている」(中古車販売店)。

 当のトヨタは堤工場とグループの富士松工場で月に5万台生産。残業や休日出勤は復活したものの、減産に合わせ一時期大幅に部品供給や人員を抑えたため、プリウスの需要が急増したからといって大々的な増産はしていない。今後、生産・納車体制を見直す構えだ。

 新型プリウスがユーザー、ディーラー、メーカーに公正な利益をもたらすにはもう少し時間がかかりそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 柳澤里佳)

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