北米の薄型テレビ市場で、徹底した低価格戦略でシェアを急拡大してきた米ヴィジオが、日本市場への進出を果たした。対する日本メーカーは、超薄型化や高画質化などの高付加価値戦略で対抗する。金融危機が実体経済にじわじわと影響を及ぼし始めたことも手伝って、年末商戦の行方に不透明感が増している。
9月初旬の週末、千葉・幕張からほど近い湾岸エリアの幹線道路で、洒落た外車が衆目を集めていた。クルマ自体が珍しいわけではない。そのクルマが積んでいた、サンルーフからはみ出している大きな箱に、目を奪われていたのである。
黒を基調としたその箱には、オレンジ色で「VIZIO(ヴィジオ)」のロゴが入っている。どうやら、近くにある米小売り大手のコストコ幕張店で購入した42インチの液晶テレビらしい。
コストコが米国の新興テレビメーカー、ヴィジオ製液晶テレビの日本での販売を始めたのは9月3日。42インチで高精細のフルハイビジョンテレビを、9万8000円という競合他社の半値近い衝撃的な低価格で売り出した。「想定以上の反響」(コストコ広報)があり、わずか3週間あまりで、最初の仕入れぶん450台は完売となった。
2007年初め頃、北米市場に彗星のごとく現れたヴィジオは、自社はデザインや販売に特化し、設計・製造を外部委託するビジネスモデルで低価格を実現してきた。一時は北米市場でソニーを抜いてシェア2位につけるなど、薄型テレビ市場の台風の目となった。今度は、高付加価値市場である日本に殴り込みをかけたのである。
ところが、ケンカを売られた当の日本メーカーは、危機感を抱く様子はない。「脅威だとは思っていない」と、大角正明・東芝デジタルメディアネットワーク社テレビ事業部長は自信満々だ。その背景には、参入障壁となる日本市場の特殊性がある。
価格よりも高機能、高品質を重視し、マージンが高い家電量販店が販売チャネルの大半を握る日本市場は、価格重視でディスカウンターの販売チャネルも強い北米市場とは大きく異なる。
テレビで世界首位の韓国サムスン電子ですら、日本のコンシューマー(個人向け)市場からはすでに撤退している。「日本はあまりにも特殊な市場。ヴィジオは土俵にすら上がれないだろう」(鳥居寿一・ディスプレイサーチTV市場担当バイスプレジデント)という見方が大勢だ。
日本市場の特殊性は、結果として多くの日本メーカーの乱立を許している。データを見ても明らかだ。上のグラフは、薄型テレビの世界市場と日本市場におけるシェアを示している。08年の第2四半期で両者を比べてみると、世界市場では、サムスンを筆頭に海外勢が上位に名を連ね、ヴィジオも世界8位につけている。