2008年、500ドルを切る低価格のミニノートパソコン(PC)で全世界に一大ブームを巻き起こした台湾ASUS(アスース)が、昨年10~12月期に、創業以来初の最終赤字に転落する見通しとなった。製品や部品の在庫が想定外にふくらみ、採算が悪化したためだ。
在庫が積み上がった背景には、2つの誤算があった。まず、世界不況による販売不振だ。個人消費が冷え込むなか、ミニノートPC市場だけは、価格志向の消費者を取り込んで急成長を続けてきた。
ASUSは、当初300万台だった08年の販売目標を600万台まで上方修正し、景気後退局面でも強気の販売姿勢を崩さなかったが、大不況の荒波には勝てず、550万台と未達に終わった。
また、急激なラインナップ拡充も在庫増を招いた。世界最大手のマザーボードメーカーでもあるASUSは、PCメーカーとしての認知度を高めるべく、ラインナップを急激に増やした。
ところが、製品ごとの差異化が不十分でコンセプトが顧客に伝わらず、かえって販売は伸び悩んだ。さらに、急激なラインナップ増加に製販の管理体制が追いつかず、過剰在庫を抱えてしまったのだ。
もちろん、世界不況の影響を受けたのは他社も同じである。ASUSと並ぶミニノートPCの雄、台湾エイサーも、昨年は当初目標の600万台には届かず、500万台程度にとどまる模様だ。
もっとも、ミニノートPC市場が引き続き成長分野であることに変わりはない。米ディスプレイサーチによれば、09年の市場規模は前年比75%増の2700万台に達する見込みだ。各社の製品が出揃った今年が、生き残りを賭けた本当の勝負の年となる。
「明確なコンセプトで差別化できない製品は売れない」(氷室英利・ディスプレイサーチディレクター)。ASUSの失速がそれを裏づけている。早ければ新学期に向けた新製品が投入される春商戦で、今年の戦況が読めるだろう。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 前田 剛 )