【第3回】 2008年11月13日
「ウツ」の人が遅刻や無断欠勤を繰り返すのは、責任感が足りないから?
――「うつ」にまつわる誤解 その(3)
遅刻が止まらない!
「遅刻をするのは、自分にだらしない証拠だ。もっと責任感をもってきちんと自己管理すべきだよ」
今月に入って半分以上遅刻が続いてしまった事務職のK子さんは、ついに上司からも注意を受けてしまいました。さすがにここまで遅刻が続くと、上司だって黙って見過ごすわけにいかないのは当然です。K子さん自身も、どうにか直さなきゃと思ってはいても、自分でもどうにもならない泥沼状態にはまってしまった感じで、途方に暮れていたところでした。
「明日こそ、絶対に遅れないようにしよう!」
K子さんは、そんなふうに毎晩寝る前に強く思うのですが、翌朝になるとぼんやりした意識の中で目覚まし時計を知らぬ間に止めてしまって、そのまま意識を失い、気がついた時にはもうどんなに頑張っても間に合わない時間になってしまっているのです。
K子さんは決して元々時間にルーズな方ではなかったし、いわゆる遅刻魔などでもありませんでした。むしろ、責任感も強く、どちらかというと几帳面な性格の持ち主だったのです。
しかし、先月あたりからポツリポツリ遅刻するようになってきて、その後徐々に頻度が増えてきて、今月に入ってからはどんどんひどくなる一方なのでした。
ついに、無断欠勤
上司に注意を受ける前から、K子さん自身も「みんなが普通にできてることもできない自分なんて、社会人として失格。意志の弱い人間で、みんなに迷惑ばかりかけている」と、痛いほど自己嫌悪していました。
そんな風に反省を重ねても、ただ自信を失くして自分が嫌いになる気持ちを強めるばかりで、状態の改善にはちっともつながりませんでした。
ある日のこと、妙にシーンとした空気感の中で目覚めて、時計に目をやったK子さん。
「えっ?まさか……!」
もう、会社の始業時間はとうに過ぎていて、今から支度して急いでも会社に着く頃には昼休みの時間帯になってしまう。
上司に注意を受けて間もなくこんな大遅刻では、もうあわせる顔もありません。同僚たちの、あきれ返った冷たい視線も想像されます。そうかと言って、仮病を使って休むにしてもこんな時間になってからでは、手遅れ。ああ、どうしよう……。
そんな風にあれこれ思い悩んでいるうちにどんどん頭は混乱して、会社へ行くことも電話をすることもできないまま、K子さんはもう何もかもどうでもよくなって、ただただ消えてしまいたい気持ち一色になってしまったのです。そして、解決とは正反対のむちゃくちゃな行動だとわかっていながらも、K子さんは布団にもぐりこんでしまうしかありませんでした。
こうして、K子さんは無断欠勤をも重ねることになっていったのです。
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
いまや8人に1人がかかっているといわれる現代病「うつ」。これだけ蔓延しているにもかかわらず、この病気に対する誤解はまだまだ多い。多数の患者と向き合ってきた精神科医が、その誤解を1つずつひも解いていく。
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