【第16回】 2009年05月28日
もはや「ウツ」の人に限らない―「何をやりたいのかわからない」現代人の悩み
――「うつ」にまつわる誤解 その(16)
「うつ」が本格的に悪化しますと、人は「何もできない」状態に陥ってしまいます。この時期には、何よりもしっかりと休養をとることが必要なのですが、たとえ療養に入っても、はじめのうちは「動けない」自分を責めながら「身体」だけを休ませるような過ごし方になりがちです。
この自責の気持ちを緩和できるかどうかが、治療初期における大きな課題です。これがクリアーされると、やっと疲弊していた「心」(=「身体」)が本当に休める状態に入ります。こうなってはじめて、充電が少しずつ行なわれるようになり、徐々に動ける状態も見られるようになるのです。
しかし、その頃から新たな悩みが出現してくることも少なくありません。それは、「何もしたくない」「自分が何をしたいのかわからなくなってしまった」というものです。この悩みは、「うつ」と診断されていない方でも、若い世代を中心に、多くの人が心中密かに抱えているポピュラーな問題でもあります。
今回は、この悩みについて掘り下げて考えてみることにしましょう。
なぜ「何もしたくない」のか?
人間は本来、好奇心のかたまりのような生き物です。
幼い子供を観察してみれば、そこに懐かしい人間の原型が見てとれるでしょう。何でも知りたがり、何でもやってみたいと思い、子供は一時もじっとしていません。これが、「心」(=「身体」)がのびのびと動いている状態です。
しかし、それがその後のしつけや教育によって「社会化」されてくるなかで、たくさんの「すべきこと」「してはならないこと」が「頭」にインプットされます。元々の旺盛な好奇心や自然な意欲がうまく温存されることは残念ながら稀で、大概の場合には、求められた課題をきちんと遂行できるような自己コントロールが効く人間になるよう教化されます。こうして、「頭」が「心」(=「身体」)を支配する体制が、私たちの中に形成されるのです。
第1回でも触れましたが、「頭」とは「~すべき」「~してはならない」といったmustやshouldの系列のことを言ってくる場所ですが、一方の「心」は、「~したい」「~したくない」とwant to系列の発言をします。
現代人は日常的に、「頭」が独裁的に自己コントロールをかけて「心」(=「身体」)の「~したい」「~したくない」といった声を抑え込み、無視してしまっていることが多いのです。
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
いまや8人に1人がかかっているといわれる現代病「うつ」。これだけ蔓延しているにもかかわらず、この病気に対する誤解はまだまだ多い。多数の患者と向き合ってきた精神科医が、その誤解を1つずつひも解いていく。
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