【第5回】 2009年11月26日
「適応」することが正常?
苦痛も喜びも麻痺してしまう精神的「去勢」
封建的な色彩の強い組織では、構成員は役割を従順に遂行することだけを求められ、それぞれの個性や自己主張は邪魔なものと見なされてしまう傾向があります。
そのような組織は、意図的かどうかは別として、構成員に何らかの精神的「去勢」を施して既存の秩序を維持しようとします。ことに封建的体質の強い組織の場合には、構成員に対して「しごき」のような通過儀礼を課したりして、人間の均質化を図ろうとする場合もあります。
こういった通過儀礼は、往々にして理不尽なものであることが多く、これに拒否反応を示した人間は「適応に失敗した弱い人間」と見なされてしまいます。窮屈な環境や理不尽な強制に対して、拒否反応を示すのは人間としてごく自然なことなのですが、組織の側からは「ストレス耐性が低い」と評価されてしまいます。
近年、皇太子妃殿下についての報道により広く認知されるようになった「適応障害」という診断名がありますが、これはストレスに満ちた環境が原因となってひき起される不調で、抑うつや不安などが生じ、仕事や学業にも支障を来たしてしまうものです。
これは本来、「うつ病」とは位置付けの異なる診断なのですが、実際にはそう明確な線引きができるわけではありません。
さて、この「適応障害」の解決のためには、まずは環境の中にあるストレス因子の除去が優先されるべきなのですが、しかし、「適応障害」という診断名からは、どうしても「本人がその環境に適応できるようになること」が治癒像であるかのようなニュアンスが醸し出されてしまいます。
そこで、今回は「適応」とは何かということについて、掘り下げて考えてみようと思います。
「適応」するとはどういうことか?
「適応」とは、外的環境に対して自分を変化させて、うまく合わせられるようになることを指します。しかし、その際に自分の内部に起こる変化とは、どんな内容なのでしょうか。
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
今日急増している「うつ」は、もはや特定の個人の問題と捉えるだけでは十分ではない。現代人が知らず知らずに翻弄されているものの正体は何か。前連載に引き続き、気鋭の精神科医が豊富な臨床経験をもとに読み解く。
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