【第6回】 2009年12月10日
何をやっても長続きしないのはなぜか?
――真のモチベーションを取り戻すプロセス
――私は、何をやっても長続きしないんです。
若い世代を中心に、このような悩みを訴える方が少なくありませんが、特に自己愛(自分自身を愛すること)がうまくいっていない方たちによく見られる悩みでもあります。
親たちは業を煮やして、そんなわが子に「ものごとは一度始めたらしっかり続けるべきだ」といった叱咤激励の言葉を向けますが、鼓舞するためのこういった言葉もその意図とは裏腹に本人の自己否定感を強めるだけで、何ら事態を改善する役に立ちません。
前連載第18回でも一度取り扱ったことのあるテーマですが、今回は、また違った視点から考えてみようと思います。
かりそめのモチベーション
「長続きしない」という悩みを抱えている人の来歴を詳しくうかがってみると、ある時期まではものごとが「長続きしていた」ことがわかります。
しかしながら、大概は、それはいわゆる「良い子」的な従順さと勤勉さによるものであって、その持久力を生んでいた「モチベーション」は、真の意味で本人の意思に根差した「モチベーション」であったかどうか疑わしいことも多いのです。
試行錯誤があまり歓迎されない風潮のせいもあって、親たちは子供に良かれと思って先回りをして、わが子が最短経路で人生の勝者となるよう進路を整えがちです。
そんな状況下で子供たちは、親の期待に応えるような「かりそめのモチベーション」に従って勉強したり稽古に励んだりして、自分を勤勉に動かすモードを身につけていきます。
しかしながら、このモードが定着してしまうと、いつの間にか「かりそめのモチベーション」が自分を支配してしまい、自分の「真のモチベーション」がつかめなくなってしまうのです。
疲れ果ててしまった〈駱駝〉
「かりそめのモチベーション」でものごとを行なっても、それは「頭」の義務感から生ずる「意志力」や周囲の期待に応えようとする心性(神経症性)が原動力なので、ある時点まで来るとどうしてもエネルギーが枯渇して、続かなくなってしまいます。
前連載第22回でも触れましたが、哲学者ニーチェの代表作『ツァラトゥストラ』の「三様の変化」の章には、人間の変化成熟の重要なプロセスが〈駱駝〉→〈獅子〉→〈小児〉として象徴的に記されています。
〈駱駝〉とは、「重荷に堪える精神」であり、忍耐・従順・諦念・畏敬の象徴で、常に「汝なすべし」という〈龍〉に支配されている存在です。
「かりそめのモチベーション」で人が動いている状態とはまさに、「一度始めたことは苦しくとも継続すべし」と〈龍〉に命ぜられ、それに忍従する〈駱駝〉の在り方に相当します。「かりそめのモチベーション」とは、つまり「駱駝のモチベーション」とでも言うべきものなのです。
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
今日急増している「うつ」は、もはや特定の個人の問題と捉えるだけでは十分ではない。現代人が知らず知らずに翻弄されているものの正体は何か。前連載に引き続き、気鋭の精神科医が豊富な臨床経験をもとに読み解く。
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