電気自動車の世界で今いちばん注目を集めているベンチャー企業といえば、シリコンバレーのプロジェクト・ベター・プレイス(PBP)だろう。事業内容は、充電施設の整備。30ヵ国と交渉を始め、ルノー・日産自動車との提携もまとめた。PBPのアガシCEOに今後の展開を聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)
――どんなビジネスモデルを描いているのか。
わかりやすくいえば、携帯電話会社の事業モデルに似ている。彼らの最大の役割は、携帯電話の利用を可能にする通信インフラを整備し維持すること。端末自体はメーカーから調達し、主に利用者から徴収するインフラ使用料で収益を上げている。
われわれプロジェクト・ベター・プレイス(PBP)の目指す姿も同じだ。充電や電池交換のためのインフラを整備し、それを維持しつつ、メーカーから電気自動車を調達し、利用者に提供していく。収益は利用者にチャージする契約料から上げる考えだ。
――契約料はいくらになる?
走行距離に応じた課金など、さまざまなプランが想定できる。
ただ、大前提として、われわれは今のように高いガソリン代を払うならば、クルマは無料になって当然だと考えている。現在のガソリン代と同等の金額で複数年の契約をしてくれるならば、電気自動車は無料で提供してもよい。
実際、ルノー・日産自動車と提携して事業に乗り出すイスラエルでは、そうするつもりだ。両社から電気自動車を買い取り、販売奨励金をつけたうえで利用者に無料で配る。むろん契約時よりガソリン価格が下がれば、当初の契約料からその差額分は払い戻すつもりだ。
――何ヵ国で事業展開の予定か。
現在約30ヵ国と交渉中だが、焦らず市場を一つずつ構築していきたいと思う。
イスラエルでは2011年をメドに、50万基のバッテリー充電スタンドを整備する。充電スタンドは自宅や仕事場、小売店、道路脇の駐車スペースに設置。電気自動車を止めてソケットに接続するだけですむようにする。
さらに、主要道路沿いに電池交換ステーションも設ける計画だ。電池の持ちが悪いために長い距離を走れないという、電気自動車の欠点を補いたい。
――投資額はいくらか。
われわれの試算では、ガソリン車を電気自動車に移行させるには、一台当たり500ドル必要だ。イスラエルの保有台数に照らすと、10億ドルの投資となる。4000万台の保有台数(乗用車のみ)を持つ日本ならば、200億ドルは必要だろう。
――イスラエルの後は、デンマークやポルトガルにも進出する計画だが、これらの国に狙いを定めた理由は?
政府にリーダーシップがあるかどうかだ。イスラエルでは、ほかならぬシモン・ペレス大統領が、ルノー・日産を率いるカルロス・ゴーン氏に引き合わせてくれた。未来はガソリン車やハイブリッド車ではなく、電気自動車にしかない。それを理解したうえで、国全体が動かないと、成功はおぼつかないだろう。