企業のデジタル変革が立ち遅れる理由は、経営陣が長年にわたり核としてきた信念・概念が変わらないことにあるという。業界や事業に固有の思い込みを逆転させるにはどうすべきなのか。


 企業ではデジタル変革の推進が大々的に叫ばれている。しかし、その華々しい言葉がどれほど成果に結びついているのかといえば、ほとんどの企業では「それほどでもない」のが現状だ。

 デジタル変革の頓挫や失敗には、さまざまな理由がある。

 最もよく見られるのは、表面的なレベルで小手先の変更を行うだけで、会社の根本的な運営には何の影響も生じないというケースだ。予算も明確な義務もない最高デジタル責任者の任命は、デジタル変革ではない。ソーシャルメディア・マーケティングの予算を増やすことも、アプリの開発も、デジタル変革とは違う。

 既存企業の多くは、小さな改善のみによって競争力を保ちたいと望む。それは新たな破壊者たちが、あらゆる面でかつてないやり方をしているにもかかわらず、である。

 真のデジタル変革には、より深いレベルでの変化、すなわち経営陣の中核概念の一新が求められる。表面的な変更は小規模で局所的な影響しか生まない。だが、思考の変更は組織に広く浸透する。それが実現されていないからこそ、ほとんどのデジタル変革は論多くして行動に乏しく、真の効果が無きに等しいのだ。

 いかなる業界にも、価値創出の主な方法に関して、昔から続いてきた何らかの前提、行動、概念がある(「価値」の意味が収益、利益、あるいは投資リターンであれ同じだ)。

 製造業の経営者であれば、工場、土地、設備に投資し、生産と在庫を慎重に管理する。コンサルティング業では、人材の採用とトレーニングに投資し、従業員の時間の使い方を注視する。小売業では、顧客維持と売場販売効率を気にかける。デジタルネットワーク(Visa、ニューヨーク証券取引所、ウーバー、フェイスブックなど)の経営陣は、ネットワーク内のメンバー数とインタラクション数を重視する。

 価値とその創出方法に関するこうした概念は、リーダーがどんな戦略と人材(およびその能力)を採用するのかを決定づける。そして最も重要なこととして、測定システム――自社のパフォーマンスを評価し意思決定の指針となるもの――のあり方を左右する。

 ほとんどの業界において、中核概念とは、けっして攻め落とされないよう維持してきた「大砲」だ。だがある日、ベンチャー投資家の支援を受けたスタートアップが現れて、砲口の向きをひっくり返す。

 今日、破壊的な新規参入者の数は増え続けているが、その主な差別化要因は明らかだ。既存の業界に新たな思考様式を持ち込み、顧客や投資家が夢中になる新たなビジネスモデルを創出しているのである。

 ゼネラル・エレクトリック(GE)のCEOジェフリー・イメルトは、2015年のインタビューで次のように述べている(英語サイト)。「我々はもはや製造業でいてはならず、もっとオラクルのように、マイクロソフトのようになる必要がある」として、そこに到達するために「ビジネスモデルを進化させるつもりだ」という。その成功に向けて必要なのは、採用や顧客管理、技術を含め多くのレベルで変革を断行する意志だとしている。

 イメルトが語っているのは、表面的な調整ではなく、より深く根本的な変化についてである。GEは製造業界の大多数の企業と同様に、モノの生産、流通、販売を重視してきた、長く根強い歴史を持つ。その範囲はジェット機のエンジンや機関車、台所用家電から風力タービンまで多岐にわたる。だが物質がデジタルに、そして企業がネットワークに移行しているこの世界では、伝統的なやり方へのこだわりは確実に失敗を導く。今日では、適応力がかつてなく問われているのだ。