日産自動車は7月13日、タイから逆輸入する新型「マーチ」を国内で発売した。その前日、日立製作所グループである日立オートモティブシステムズからの部品供給遅延が明らかになり、日産の国内4工場は14日から3日間、米国2工場は15日から休日をまたいで3日間、操業停止に追い込まれた。

 一見すると関係性の薄い話題だが、じつは共通項がある。それは「系列外」取引。この明暗が浮かび上がったのである。

 近年、日系自動車メーカーは系列外部品メーカーとの取引を活発化させている。その一つがコスト低減、為替リスク回避のための現地調達だ。ただ新興国での調達は品質や供給に問題が生じやすく、そのリスクのコントロールこそ自動車会社の腕の見せどころ。日産は新型マーチで力量を見せた。

 同車の開発で日産が掲げた目標は「徹底的な現地化」だった。最終的に現地調達率90%レベルを達成して「国産よりも20~30%安く生産できる」(志賀俊之・日産COO)ようになった。

 系列外の流れを加速させる別の要因はクルマの電子化だ。クルマの制御機能は従来のメカ式から電子式へ急速にシフトし、1台当たり数十~100個ものマイクロコンピュータが搭載されるようになった。高度な電子制御技術を持つのは系列外の企業に多い。大半は先進国企業なので品質や供給の安定性は確保されやすいが、系列内ほどには自動車メーカーの監視の目は届かない。

 日立は日産など自動車メーカーに車載電子制御装置の一つであるエンジン制御ユニット(ECU)を供給している。日立と日産の取引関係は深いものの、ECUに欠かせない集積回路(IC)は日立が欧州半導体大手STマイクロエレクトロニクスから特注品を調達していた。STマイクロは納入期限直前の今月2日、日立に7月分の供給減を通告した。

 STマイクロの供給不足の一因は「需給の逼迫」とも伝えられるが、系列内であれば当然早い段階でどんな問題であれ、把握し、対策を練ることができた。そもそも自動車メーカーや部品メーカーは災害発生リスクを考慮して調達先を1社に絞ることを通常は避ける。日立は特注品ゆえにコスト面などを考えて1社に絞り込んでいた。

 結局、納入延期を突然通告された日産には操業停止以外、なす術がなかった。新型マーチに影響はないものの、国内生産車種は約1万5000台に遅延が生じる。9月末で終了するエコカー補助金の駆け込み需要が見込まれるだけに最悪のタイミングだ。

 自動車メーカー幹部たちは驚きながらも、「他人事ではない」と呟く。電気自動車など次世代車開発のなかで新規取引はさらに増える。自動車各社に当てはまる新たなリスクが顕在化したのである。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)

週刊ダイヤモンド