米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体ビジネス・ラウンドテーブルは、2019年8月、「企業の目的に関する声明」を発表した。米国を代表する181社が株主至上主義からの決別を宣言したことは大きな話題を呼んだが、この声明はなぜ重要なのか、これによって何が変わり、また変わらないのだろうか。『グリーン・トゥ・ゴールド』の著者アンドリュー・ウィンストン氏が論じる。


 断食ならぬ断ニュースで過ごした夏休みから戻ると、世の中はさまざまなニュースであふれていた。奇妙なニュースもあれば、重要なニュースもある。

 米国がグリーンランド購入を検討した(なんだそりゃ?)、アマゾンで森林火災が発生、大富豪のデイビッド・コックが死去、そして有力ロビー団体「ビジネス・ラウンドテーブル(BR)」の会員である大手企業181社が、企業の目的は株主に奉仕すること(1997年以来BRの公式見解だ)だけではなく、「すべてのステークホルダーのために価値を創出すること」だと宣言した――。

 本稿で取り上げたいのは、このBRの宣言だが、奇妙なことに、ここに挙げたニュースはすべてつながっている。それを説明しよう。

 BRの宣言は、たしかに重大事件のように思える。経済学者のミルトン・フリードマンが、「企業の社会的責任は利益を増やすことである」と宣言して以来、約50年にわたり、株主至上主義は上場企業の中核的な経営理念とされてきた。それを推進してきたのが、コック兄弟ら大富豪だ。彼らは莫大な資金を投じて、市場経済、株主至上主義、新自由主義哲学を世界の支配的な経済モデルにした。

 コック兄弟らの寄付を受けた複数のシンクタンクは、この経済モデルがいかに正しいかを連日主張した。彼らは同時に、気候科学の信用を失わせてきた。それは既存の権力構造を維持できるかどうかに大いに関係していたからだ。

 世界最大手企業のCEOたちが、株主のことしか考えない、視野の狭い経営方針に決別を宣言した週に、デービッド・コックが死去したのは、象徴的だった(念のため、筆者は複数のBR会員企業のためにコンサルティングや講演などの活動に従事したこと開示しておく)。

 BRの声明がなぜ重要なのか、他のニュースとどうつながっているのか、そして今後、株主資本主義のどの部分が変わるのか(あるいは変わらないのか)を理解するために、3つのポイントを押さえておこう。