持続可能な食料システムの構築を目指す

──改めて「みどり戦略」を推進する基本的な考え方をお聞かせください。

横山紳事務次官(以下、横山) 農林水産業は、多面的機能の発揮や自然循環機能の維持増進など、環境にとってプラスの機能を備えた産業と考えられてきました。しかし一方で、収量増加のために化学肥料を使い、あるいは牛のげっぷによるメタン(温室効果ガス)排出など環境に負荷もかけています。農林水産業の持続性は健全な環境なくして成り立ちませんし、資源が有限である中で、将来にわたっていかに安定的に農業生産を確保するかが問われています。そのための政策がみどり戦略です。折しも、2022年のロシアのウクライナ侵攻等により、そのほとんどを輸入に依存する化学肥料原料などの安定供給に影響が及んだことで、堆肥などの今ある資源をいかに有効活用するか、という視点も改めて認識されました。食料安全保障の問題は、未来の食料システムの問題と重なるところがあります。

第1回:横山紳・農林水産事務次官インタビュー 「みどりの食料システム戦略」の実現に向けて横山 紳(よこやま・しん)農林水産事務次官
1963年 兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業後、農林水産省に入省。2019年経営局長、2020年大臣官房長を経て、2022年6月より現職。

──「みどり戦略」の取り組みを、どのように進めていくのでしょうか。

横山 「みどり戦略」は、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するための戦略です。そのため、調達、生産、加工・流通、消費の各段階における環境負荷低減の取り組みとそれを支える新技術の開発・実装を推進することとしています。2050年までに達成すべき姿として、例えば、農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現、化学農薬使用量(リスク換算)の50%低減、化学肥料使用量の30%低減、有機農業の取り組み面積を耕地面積の25%(約100万ヘクタール)に拡大などの14の目標(KPI)を掲げています。また、2022年6月には、中間目標として2030年目標を決定したところです。中長期的な技術開発とともに、まずは既存の優れた技術・取り組みの横展開を進めていきます。また、消費者をはじめとする国民各層に積極的に情報発信を行い、関係者の理解と支持が得られるよう努めてまいります。地域や生産現場の意欲的な取り組みについては、予算措置や「みどりの食料システム法」に基づく支援を進めてまいります。