第2回: 「みどりの食料システム戦略」の実現を支える生産現場の声有機栽培の大麦に対する需要は強く、KPFでも作付面積の拡大に力を注いでいる

 KPFは草津市の馬場町地区を中心に、作付面積ベースで水稲30ヘクタール、麦23ヘクタール、大豆9ヘクタールなどを耕作し、大部分(約90%)が有機栽培だ。中山代表の他、11人の従業員がいる。

 中山代表は、「私は、農業を20年間ほどやっていますが、有機栽培しか知らないんです」と笑うが、まさに「有機のプロ」である中山代表によれば、有機栽培の最大の肝は「作物本来の生命力を発揮させ、成長が早い雑草をいかに生えないようにするか」である。

 例えばKPFの有機稲作は、代かきを2回行う。1回目では草の種を浮力によって土壌の表面に誘導し、雑草が発芽した後の2回目では土壌にすき込み、雑草の絶対量を減らす。田植えは「疎植」、つまり株の間隔を空けて茎が成長しやすい環境を創る。

「田植え後の雑草対策に米ぬかのペレットを散布します。米ぬかが水中で発酵してガスを発生し、それが雑草の発芽を抑制するといわれています。後に、イトミミズや微生物が米ぬかを餌として分解していくと微生物の層が土壌表面にできて、雑草は種や新芽を覆われて死滅します。それでも抑え切れない雑草に対しては乗用除草機で除草します。除草のタイミングは田植えから1カ月以内と短いので、大規模な有機稲作においては一時的に作業が集中します」

 KPFでは、米ぬかだけでなく水田除草機の追加導入と、鶏ふん、もみ殻堆肥などを活用して有機栽培の面積拡大を目指しており、そうした取り組みについて今回、「みどりの食料システム法」に基づく認定を受けることになった。

第2回: 「みどりの食料システム戦略」の実現を支える生産現場の声もみ殻堆肥や鶏ふんを使い有機質資材の増量=化学肥料の不使用を図る

有機栽培だからこそのマネジメント

 ちなみに有機栽培による水稲の反収(1反〈300坪〉当たりの収量)は330キログラム。通常の慣行栽培の480キログラムほどと比べると少ないが、これを400キログラムまで増やすのが当面の目標だ。「健康的な稲は本来、他の植物や虫を抑制する物質を放つアレロパシーを備え持っている。地元滋賀県で大正時代から栽培されていた『滋賀旭』は野性的な稲姿で、さらに自社の有機水田で自家採種を続けてきたことで、この地域での栽培に適した品種であることを強く感じる。現在の2割からさらに作付けの量を増やす計画でいます。滋賀旭はコシヒカリよりも反収が多いのです」。

 大麦栽培にも力を注いでいる。有機栽培大麦を原料とするみそや麦茶の引き合いは強く、まさに引っ張りだこの状態だ。反収は220キログラムで、これを300キログラムに増やそうとしており、作付面積の拡大も予定している。

 経営の視点で有機栽培を見れば、「単純な労働集約型農業になるリスクがある」と中山代表は語る。耕作地を拡大するとともに、それに見合う人数の作業者がいなければ収益力は高まらない。また個々の作業者の能力によって反収もブレる。機械化などの省力化を進め、1人当たりの耕作地面積を広げ、作業者の耕作能力を早く向上させるマネジメントと有機栽培に合わせたチームワークの取れた組織づくりが必要だ。さらにKPFでは新事業として、貸農園や体験農園などの展開を思案している。環境負荷低減の取り組みを進めるためには、その重要性に対する消費者の理解が必要であり、これらの活動は生産者と消費者の接点を生み、生産者の努力に対し消費者が理解を深める機会にもなる。さらには、町に住む人たちを農村に呼び込み、「共に食べられる農地を創り、農のある町づくりを目指す」ことにもつながる。

第2回: 「みどりの食料システム戦略」の実現を支える生産現場の声KPFでは有機栽培の赤しそも耕作している。中山代表は、「美しい風景を創るのも農業の素晴らしい機能です」と語る