「みどりの食料システム戦略」の実現を支援する新技術も相次ぐ

 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)や(国研)国際農林水産業研究センター(国際農研)などの研究機関は、「みどりの食料システム戦略」を支える画期的な技術や品種の開発に取り組んでおり、既に成功事例も生まれている。

 水稲の有機栽培に関わる作業の効率化に期待できるのが農研機構の「両正条田植機」だ。有機栽培の除草は手取りとなることが多く、農薬を使う慣行栽培よりも作業時間が6倍も多い。しかも除草機械は条間(進行方向)のみにしか対応できないため、株間(横方向)の除草には対応できなかった。

 農研機構が開発した精密作業可能な植え付け機構(苗をつまんで植える装置)では、任意の位置に苗を植え付けられるため、GPSで田植機の位置を制御し、苗を碁盤の目状に植え付ける両正条植えが可能である。これで有機栽培の水田でも除草機械を縦横に動かせるようになり、除草作業の大幅な効率化が期待できる。

 一方、肥料を効率的に利用できる小麦の品種開発も進んでいる。畑に施用した窒素肥料の過半は、作物に吸収されないまま温室効果ガスや硝酸態窒素として農地外に流出している。これは土壌微生物が肥料中のアンモニア態窒素を硝酸態窒素に変化させること(硝化)によるものだ。その際にはCO2の298倍もの温室効果を持つN2O(一酸化二窒素)を発生する。そこで、多収の小麦品種に、高い生物的硝化抑制(BNI)能を持つ野生の近縁種を交配させた「BNI強化小麦」の開発に、国際農研や国際とうもろこし・小麦改良センター(CIMMYT)、日本大学などの共同研究チームが取り組み、世界で初めて成功した。

 BNI強化小麦は、窒素肥料を6割減らしても通常の小麦と同じ収量を維持し、温室効果ガスの削減や水質汚染の低減にも寄与すると期待されている。この研究は、米国科学アカデミー紀要から「2021年最優秀論文賞」を受賞した。

 開発に使った品種が栽培されているインドやネパールでは、普及に向けた栽培実証が開始。農林水産省では、日本での栽培に適したBNI強化小麦の開発に取り組む方針だ。

●問い合わせ先
農林水産省
URL:https://www.maff.go.jp/

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