安全安心のための社会インフラとして普及を推進

川崎重工業といえば、船舶、航空機をはじめとする輸送機器や、ガスタービン、産業プラントなどを製造する、言わずと知れた重工業メーカーだ。「モノからサービスへ」が時代の潮流であるとはいえ、その川崎重工業が屋内位置情報サービスという新たな事業領域に踏み出したことには、やや驚きを禁じ得ない。

しかし、「当社は、2030年に目指す将来像を定めた『グループビジョン2030』で、今後注力するフィールドの一つとして『安全安心リモート社会』を挙げています。屋内でも位置情報が正確に把握できる環境を整えれば、火災や自然災害が発生したときの救助や誘導に役立ちますし、病院の患者が今、院内のどこにいるのかといった位置情報を把握することで、トイレの中で倒れてしまった患者の命を救うこともできます。つまり、安全安心のための重要な社会インフラとなる可能性を持っており、グループビジョンに合致する取り組みだからこそ、われわれが整備すべきだと考えているのです」と野田部長は説明する。

そもそも「iPNT-KTM」は、川崎重工業が実施する新規事業の社内公募制度「ビジネスアイディアチャレンジ」に野田部長が応募したアイデアを基に生まれたサービスだ。

「応募の2年ほど前からアイデアを温め、必ず事業化を実現させたいと思っていました。屋内位置情報サービスを社会インフラとして普及させるには、とにかく投資コストを抑えなければなりません。どうすれば安上がりにできるか? といろいろ探っているうちにMapxusの技術と出合い、これなら行けると確信して応募したのです」(野田部長)

応募から5カ月ほど経った21年7月、野田部長は、金花芳則会長と橋本康彦社長の前でアイデアをプレゼンする機会を得る。

両トップは「面白い。ぜひやろう」とすぐさまゴーサインを出し、2週間後には社長直轄プロジェクトとして動きだすことが決定。8月1日付で社長直轄プロジェクト本部PNT推進部が発足。野田部長と1名の部下を引き連れて本社へ異動し、この「iPNT-KTM」を普及させるプロジェクトが正式に始動した。

この意思決定の速さが、屋内位置情報サービスの普及を自分たちが担っていくという川崎重工業の思いの強さを物語っている。

大手企業が続々導入。GPSでは取得不可能だった屋内位置情報を初期設備投資ほぼゼロで利用できる新サービスとは「iPNT-KTM」のサービス全エリアではインタラクティブな屋内マップを製作・提供している
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社会インフラとして全国に普及させるため、川崎重工業は、地下街、鉄道/地下鉄の駅や空港、大型ショッピングモールなどの商業施設の共用部分といったパブリック空間については、自らの投資によって「iPNT-KTM」の展開を進めている。24年から25年には、全国のパブリック空間で人口カバー率90%を目指す考えだ。「そこまで普及が進めば、社会インフラとしての有用性は確固たるものになる」と野田部長は確信している。