リモートワークからオフィス勤務への“揺り戻し”が始まっている

今や、すっかり当たり前の勤務スタイルとなったリモートワーク。新型コロナウイルスの感染が広がり始め、国が最初の緊急事態宣言を出した2020年春以降、社員に在宅勤務を命じた企業の数は企業全体の8~9割に上ったとみられている。

それ以前から、国は“働き方改革”の一環として、在宅勤務をはじめとするテレワークの導入を企業に推奨してきたが、企業側の動きはかなり鈍かった。

「在宅勤務のためのITインフラが整っていない中堅・中小企業を中心に、『やりたくてもできない』という思い込みが強かったからだと思います。しかし、いざやってみると、意外に何とかなることが分かってリモートワークは一気に進みました。コロナ禍というかつてない危機が、“働き方改革”を一気に前進させたことは間違いないと思います」

そう語るのは、ワークスタイルやオフィスの研究を専門とする東京大学大学院経済学研究科の稲水伸行准教授だ。

出社する社員が減ったことで、オフィスの在り方も大きく変わった。常時、一定数の社員が在宅勤務することを前提に、オフィススペースの契約面積を縮小したり、より小さなオフィスに移転したりする動きが広がり、それを機にフリーアドレスやABW(Activity-Based Working)に対応するオフィスに変更する企業が増えたのだ。

ちなみに、フリーアドレスとは、従来のように固定席を設けることなく、社員がどの席でも自由に使って働けるようにすること。ABWとは、通常の執務スペースの他、フリースペースやコワーキングスペース、オンライン会議の専用ブースなど設け、仕事の内容や働き方に合わせて、ワーキングスペースを自由に選べるようにすることだ。

「従来のオフィスをフリーアドレスやABWに変える動きは以前からありましたが、コロナ禍で一気に加速したようです。これまで、やろうと思っても予算や手間がかかるのでちゅうちょしていたオフィス変革が、やりやすい環境になったからではないでしょうか」(稲水准教授)

次ページからは「働き方」「働く場所」の選択肢を広げることで人的資本経営やウェルビーイング向上につなげようとする企業の取り組みを詳しく紹介する。