しかし、ワークスタイルやオフィスのトレンドは、時代とともにさらに移り変わる。

今年5月、新型コロナの感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行し、ようやく平穏な日常が戻りつつある中で、在宅勤務をしていた社員をオフィスに戻そうとする企業の動きも目立ってきた。完全に元通りのオフィス勤務とする企業もあれば、社員の要望に応じて在宅勤務を認める企業もあって、対応はさまざまだが、「しばらくはオフィス勤務への“揺り戻し”が続くでしょう」と稲水准教授はみる。

働き方と働く場所のオプションを増やした方が会社への愛着やウェルビーイングは高まる東京大学大学院経済学研究科
稲水伸行 准教授
1980年広島県生まれ。2003年東京大学経済学部卒業。08年 東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。05年~08年日本学術振興会特別研究員(DC1)、東京大学ものづくり経営研究センター特任研究員、同特任助教、筑波大学ビジネスサイエンス系准教授を経て、16年より現職。博士(経済学)(東京大学, 2008年)。企業との共同研究によるオフィス学プロジェクトを主宰。主な著作として『流動化する組織の意思決定』(東京大学出版会、2014年。第31回 組織学会高宮賞 受賞)。

社員にいかに「出社してもらえる」オフィスにするか

在宅からオフィスへの“揺り戻し”が起こっているのは、ようやくコロナが収まりつつあるからだけではない。オフィスに出てくる社員の数が少ないと、どうしても社員同士の連帯感や社内コミュニケーションが希薄になってしまうからでもある。

「業務上の連絡や報告だけでなく、インフォーマルな情報交換や社員同士の交流まで行うとなると、やはり直接、顔を合わせてコミュニケーションするのが望ましいといえます。経営者の多くは、せっかく定着した在宅勤務をなくすつもりはないけれど、なるべく出社してほしいと思っているのではないでしょうか」(稲水准教授)

だが、在宅勤務の気軽さや利便性を知ってしまうと、なかなかオフィスに足が向かなくなるのも事実だ。そのため、稲水准教授は、「これからは、社員にいかに出社してもらえるオフィスにするかを考える必要もありそうです」と指摘する。

「具体的な事例はまだあまり多くありませんが、ある企業はおいしい食事をオフィスに用意し、出社してくる社員に提供しています。『離れた場所でいつも頑張っているのは分かるけど、昼食ぐらいは一緒に食べよう』というメッセージを込めた施策です。社員同士が気軽に食事をすれば、仕事以外の会話も弾んで、思わぬアイデアが浮かぶこともあるのではないでしょうか。もちろん、社員同士の連帯感を深め、部門の垣根を越えたコミュニケーションが活発化するといった効果も期待できるはずです」(稲水准教授)

オフィスの在り方をフリーアドレスやABWに変えるという方法もあるが、“箱”を変えただけで、在宅勤務をしていた社員がオフィスに戻ってくるとは限らない。稲水准教授が挙げた食事の例のように、ソフト面でいかに工夫を凝らすかということも重要だ。

人的資本経営やウェルビーイングにどうひも付けるか

“働き方”や“働く場所”の変革は、業務効率化や生産性向上、創造性の発揚といった効果を期待して実施されることが多い。

リモートワークとオフィスワークを使い分ける「ハイブリッドワーク」や、気分に応じて働くスペースを選ぶABWは、上記のような効果が期待できる“働き方”“働く場所”だと認識されているが、実際にどれほど効果があるのだろうか。