稲水准教授によると、鍵を握るのは「柔軟な“働き方”や“働く場所”が与えられているメリットを生かし、社内外とのネットワークを形成できる人材がいるかどうか」だという。
「私の最近の研究で、人材が創造性を発揮できるようになるのには、人的なネットワークや社会的なつながりが重要であることが分かってきました。ABWのメリットを生かしてオフィス内を縦横に巡り歩き、いろいろな社員とコミュニケーションを交わしている人や、ハイブリッドワークで社外とのコミュニケーションも活発に行っている人の方が、創造性や仕事に対するモチベーションが高いようです。つまり、柔軟な“働き方”や“働く場所”を積極的に使いこなしている人の方が、よりイノベーティブで積極的な人材になりやすいのです」(稲水准教授)
この指摘から見えてくるのは、ハイブリッドワークやABWといった“仕掛け”を整えるだけでなく、それを「いかに使わせるか」が重要だということだ。
利用状況の分析や社内アンケート調査に基づく“仕掛け”の改善、活用を促すためのプロモーションなど、さまざまな施策が考えられるが、PDCAを回し、試行錯誤を重ねながら、「使ってもらえる」制度や空間に変えていくことが求められるだろう。
ワークスタイルやオフィスの変革については、このところ関心が高まっている「人的資本経営」にひも付けて実践する企業も増えているようだ。
稲水准教授は、「人的資本経営においては、投資によって人的資本がどれだけ高まったのかを外部のステークホルダーに示すことが必要ですが、“働き方”や“働く場所”の変革がどれだけ生産性の向上やイノベーションに結び付いているのかを定量的に測るのは簡単ではありません。人的資本経営に基づく変革を実践するのであれば、何らかの効果測定や検証の方法を考える必要があるでしょう」とアドバイスする。
社員のウェルビーイングに配慮する一環として、ワークスタイルやオフィスの変革に取り組む企業が増えているのも最近のトレンドである。
「以前に行った調査では、“働く場所”を限定している会社よりも、オフィスや在宅、サードプレイスなど、好きな場所を選べるようにしている会社の方が、社員のウェルビーイングに対する満足度や会社への愛着が高まりやすいという傾向が表れました。多少精査が必要な調査結果ですが、『ハイブリッドワーク』を制度として取り入れれば、社員のウェルビーイングへの満足度は高まるのではないでしょうか」(稲水准教授)
社員のウェルビーイングを高めるためには、オフタイムを充実させる福利厚生制度や、キャリアアップを支援する社内教育制度などの整備も不可欠だ。最近では、オフィスに入居する企業に、そうしたソフト面のサービスまで提供する大手不動産企業もある。
ワークスタイルやオフィスの変革だけでなく、より多面的なサービスで社員の「ワーク」と「ライフ」を充実させることが、今後のトレンドとなりそうだ。