物流に対する荷主と一般消費者の意識変革が不可欠
内閣官房と国土交通省は23年6月2日、物流の「2024年問題」に対応するための「物流革新に向けた政策パッケージ」を発表、関係閣僚会議で決定された。
同パッケージは、「何も対策を講じなければ、24年度に14%、30年度には34%の輸送力不足に陥る可能性がある」というシビアな試算の下、荷主企業、物流事業者(運送・倉庫等)、一般消費者が協力して、わが国の物流を支えるための環境整備に向け、①商慣行の見直し、②物流の効率化、③荷主・消費者の行動変容という“三つの柱”で、抜本的・総合的な対策を幾つも盛り込んだ。いわば、「2024年問題」解決のための“総力戦”である。
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「同パッケージに盛り込まれた一つ一つの対策は決して目新しいものではありませんが、物流サービスを提供する運輸・倉庫などの事業者だけでなく、サービスを利用する荷主や一般消費者も巻き込んだのが画期的なポイントだといえます。『便利なサービスを、安く利用できる』ことが当たり前だと思っている荷主・一般消費者の意識を変えてもらわなければ、モノが運べなくなる危機を回避することは困難です。その意味で、非常に意義のある『政策パッケージ』だといえるでしょう」と西村編集長は評価する。
“三つの柱”のうち、荷主と一般消費者に関わるのは、①の商慣行の見直しと、③の行動変容である。
「商慣行の見直しでは、例えば『翌日配送』が当たり前となっている商品を『翌々日配送』に変更するだけでも、トラックやドライバーの手配がしやすくなり、トラック1台当たりの積載率も上がります。個別の企業だけでなく、業界全体の商慣行を見直すことも効果的でしょう。また、食品業界では、商品の消費期限を『年月日』で表示するのが当たり前となっており、期限の迫った商品を急いで納めようとすることが物流に大きな負荷をかけています。消費期限の表示を『年月』だけにすれば、そうした負荷もかなり緩和されるはずです」(西村編集長)
さらに、物流の需要は、夏の急激な気温上昇による冷たい飲料、食品などの注文の増加や、贈答品が増えるクリスマスなど、季節ごとに大きく変動する。あらかじめ予測できる変化なら事前に準備できるが、予測できない突発的な注文の増加も多く、トラックやドライバーの手配に苦労するケースも多い。
「荷主の営業施策によって、急に荷物が増えるのは致し方ないことですが、なるべく注文が平準化されるような商慣行に変えてもらうのが理想だといえます」と西村編集長は語る。
西村 旦(にしむら・たん)編集長
1992年カーゴ・ジャパン入社。「カーゴニュース」編集部記者として、物流事業者、荷主企業、関係官庁などを幅広く担当。2011年代表取締役社長兼編集局長に就任。同年、幅広い交通分野での物流振興を目的として創設され、優良な論文などを顕彰する「住田物流奨励賞」(第4回)を受賞。
一般消費者の行動変容では、「宅配便の再配達をいかに減らすか?」ということが重要なポイントの一つである。
「宅配便の取扱個数は年間約50億個ですが、その10%以上、つまり5億個以上の荷物が再配達されているのが実情です。一般消費者の行動変容を促し、再配達を減らすだけでも物流現場の負担は大幅に軽減されます。モノが運べなくなるという危機を回避するためには、危機の深刻さに対する一般消費者の理解を深め、行動を変えてもらえるようにする働き掛けが欠かせません」(西村編集長)
荷主や一般消費者の意識変革を土台とした上で、物流そのものの効率化を図っていこうというのが「政策パッケージ」の狙いである。
効率化の鍵を握るのは、デジタルテクノロジーの活用だ。車両管理やドライバー管理、運行管理など、アナログで処理されていた業務をデジタル化することが、足りない人手でも物流を回せる体制づくりにつながる。