中堅・中小の物流事業者も、デジタル化は避けて通れない
物流業界は、他の業界と比べると業務のデジタル化がやや遅れてきたといわれている。大手物流企業では、AIやデータサイエンスなどを駆使した変革が行われているが、中堅・中小の物流事業者では、デジタルテクノロジーの活用はあまり進んでいない。
「大型トラックへのデジタコ(デジタルタコグラフ、デジタル式運行記録計のこと)の装着が義務化され、対応するシステムさえ導入すれば車両の動態管理が可能になるなど、物流とデジタルの親和性は決して低くはありません。にもかかわらず物流のデジタル化が進まなかったのは、人手不足といわれつつも、これまでは“人海戦術”で何とかやりくりできたからです」(西村編集長)
前述の通り、トラックやドライバーの稼働件数は、荷主からの突発的な注文によって大きく変動する。それらを電話やファクスなどで手配するというのが従来のやり方だが、大量の事務スタッフによる“人海戦術”と、スタッフ個々人の瞬発力だけで何とかこなしてきた。
しかし、ドライバーだけでなく、事務スタッフの人員確保も困難になる中で、そうした人手頼みの業務には限界が生じつつある。パソコンの画面上で車両の稼働状況や運行状況などを把握し、急な注文を受けても、そのままパソコンからトラックやドライバーを手配できるような仕組みを取り入れるなど、業務のデジタル化は避けられなくなってきた。
「最近は比較的安価で、中堅・中小の物流事業者でも導入しやすいクラウド型の車両管理システムや運行管理システムなどが幾つも登場しています。まずは、それらのシステムを必要に応じて導入し、段階的に業務のデジタル化を進めるのがいいのではないでしょうか」と西村編集長はアドバイスする。
中堅・中小の物流事業者がデジタル化を推し進めるべきなのは、大手の荷主や物流事業者を中心として、日本の物流システム全体をデジタル化しようとする動きが始まっているからだ。そのきっかけが、「フィジカルインターネット」の構築である。
これは、一つの通信回線を複数のユーザーが同時に利用するインターネットのように、1台のトラックに複数の荷主が“相乗り”する仕組みだ。通信のやりとりと似た仕組みを、「モノを運ぶ」という物理的(フィジカル)なやりとりに当てはめる概念なので、フィジカルインターネットと呼ぶ。平たく言えば、複数の荷主による荷物の共同配送である。
荷主ごとにバラバラで運行しているトラックが1台に集約されれば、積載率は上がり、走らせるトラックやドライバーの数も減らせる。物流の「2024年問題」に対応できるだけでなく、道路渋滞の緩和や、CO2排出量の削減など、さまざまなメリットがもたらされるのだ。国はその実現に向けてすでに動きだしており、経済産業省と国土交通省は22年3月、40年を実現目標とするフィジカルインターネット実現のロードマップを策定した。
西村編集長は、「共同配送を実現するには、荷主ごとに運営している物流拠点の集約や、パレットの規格統一など、さまざまな課題がありますが、まずは共同運行を実現するために車両データや運行データの可視化、共有化を図らなければなりません。そのためには、物流事業者からのデータ提供が不可欠になります」と語る。
そのため、2次請け、3次請けの中堅・中小の物流事業者であっても、元請けの事業者からデータ提供を求められるケースが増えると西村編集長は見ている。そうなると、デジタル化を進めておかなければ、受注そのものが減る恐れもある。
「事業規模にかかわらず、業務のデジタル化は全ての物流事業者にとって避けては通れない課題となりつつあります。まずは、できるところから一歩ずつ始めてみる必要がありますね」と西村編集長は提言する。