20年10月、菅義偉前首相が50年までにカーボンニュートラルを目指すという目標を掲げた。この目標は従来の政府方針を大幅に前倒しすることになるため、エネルギー・産業部門の構造転換や大胆な投資によって各産業の取り組みを加速させる必要がある。
そこで経済産業省は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に総額2兆円の基金を創設し、10年間継続して支援するグリーンイノベーション基金事業を立ち上げた。
経済産業省の施策を受けて、「COURSE50」プロジェクトもグリーンイノベーション基金事業「製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト」へ移行。これに合わせて日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所、金属系材料研究開発センターの4社がコンソーシアムを結成、「水素製鉄プロジェクト」(GREINS:Green Innovation in Steelmaking)を立ち上げ、各社共同による技術開発をスタートさせた。
CO2排出量削減目標は、日本鉄鋼連盟が「カーボンニュートラル行動計画」の中で宣言した30年度に13年度比で30%削減、50年カーボンニュートラル実現だ。このハードルはとてつもなく高く、「COURSE50」で成果を上げた高炉法だけでは達成が難しい。そこでGREINSは高炉法のほかにも、直接還元製鉄法、電気炉法を候補に加え、複線的な技術開発を進めることとした。まだ誰も到達していない技術領域への挑戦が始まった。
日本鉄鋼連盟は「カーボンニュートラル行動計画」の中で、2013年度のCO2排出量を基準に30年度30%削減、50年カーボンニュートラルを目指すと宣言した
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なぜ、水素活用プロジェクトなのか。GREINSのプロジェクトリーダーである日本製鉄の野村誠治氏はこう説明する。
「高炉法は極めて効率のいい方法ですが、鉄鉱石から鉄分を取り出すときに石炭の炭素を使って酸素を除去(還元)するため、酸素が炭素と結合してCO2が発生してしまいます。そこで炭素の代わりに水素を使って還元することにより、CO2ではなく、無害なH2O(水)が発生する。その技術を開発するのが水素製鉄プロジェクト(GREINS)です」
水素活用の可能性と課題
炭素は高炉内で還元時に、鉄を溶かすために必要な熱を発生するという意味では合理的だがCO2排出は避けられない。一方、水素はCO2削減には有効だが、水素が酸化鉄と反応するときに熱を吸い取る吸熱反応が起こるため、加熱した水素を大量に吹き込む必要がある。野村プロジェクトリーダーは続ける。
「一般に水素は爆発しやすいというイメージがありますが、私たちも安全に水素を加熱する方法を模索しているところであり、間接加熱など新規の技術開発が必要と考えています」
高炉法は鉄を作るための現在の主力技術だが、電気の熱で使用済みの鉄(スクラップ)や還元鉄を溶かす電気炉法も利用されている。電気炉法は既にある鉄を溶かすだけだから有望な手段と考えられないか。これに対して、野村プロジェクトリーダーは、スクラップや還元鉄に含まれる不純物(有害元素)に問題があると話す。
「鉄製品は用途や機能ごとに成分調整して作るが、スクラップには除去できない不純物が多く含まれています。そこで、混入している有害元素を無害化したり除去する技術を確立したりして、電気炉では従来製造されていなかった不純物が少なく付加価値の高い高級鋼製造に挑戦しています」
高炉にも電気炉にも解決すべき課題が山積している。ではGREINSは、どのような技術によって課題を克服しようとしているのだろう。