第2回:日本の鉄鋼業はカーボンニュートラル社会実現に向けて、英知を集めた「水素製鉄技術」で世界をリードするGREINS
田野 学 副プロジェクトリーダー
(JFEスチール 理事・技術企画部長)

ベストな技術を選ぶために複線的に技術を開発

現時点で、どの技術が有望なのだろう。野村プロジェクトリーダーは一長一短だと話す。

「高炉法、電気炉法、直接還元製鉄法のどれにも優位性と問題点があります。高炉は低品位鉱石が使える、高級鋼が生産できるという優位性がある一方で、CO2が出てしまうので、分離したCO2を貯留あるいは利用するCCUS※(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の活用が不可欠です。電気炉法、直接還元製鉄法は、生産性や製品品質の点で高炉法の優位性には及ばないのが課題となっていますが、水素が100%使えて、カーボンニュートラルな電力が供給されれば、これだけでカーボンニュートラルが実現できる可能性があります」

GREINSの副プロジェクトリーダーである、JFEスチールの田野学氏も同じ意見だ。

「ベストな技術を選ぶために複線的に技術開発を行っている段階なので、現時点でどれが有望なのかを決めることはできません。実機ではコストも考慮しなければなりません。ただ、進捗という意味に限れば、恐らく電気炉法が早いと思います」

日本の鉄鋼各社の技術が集結すれば、30年、50年の目標は達成できそうだ。だが、それには一つの重要な要件がある。

「それはインフラ整備です」と田野副プロジェクトリーダー。政府は23年に「水素基本戦略」を改定し、40年までに水素の供給量を1200万トン導入する目標を掲げたが、「製鉄における炭素を水素に置き換えるためには、その量ではとても足りません」。

同時に電源構成を見直すため、十分な量のグリーン電力を供給することも「極めて大事」になる。

野村プロジェクトリーダーはGREINSとしての覚悟をこう語る。

「カーボンニュートラルの実現は鉄鋼業だけの課題ではありません。高機能な鉄鋼製品は日本の多くの産業で使われています。日本産業の国際競争力向上に貢献するため、絶対に成功させなければなりません」

田野副プロジェクトリーダーも「これほどのコンソーシアムを組んで、なおかつ社会実装までやるのだというプロジェクトはそうそうないと思います。業界内外から大きな期待を寄せられているし、われわれも成功に対して大きな責任があると思っています」と語る。

何としてでもカーボンニュートラルを実現する――GREINSメンバーの決意は固い。

※CCUS:分離・回収したCO2を貯留あるいは有効活用する技術