――各社が開発する技術の特色はどのようなものですか。
JFEスチール・手塚 日本製鉄さんは先ほど説明された、高炉に直接水素を吹き込む水素還元技術を開発しています。当社は、高炉から出た排ガス中のCO2を高炉外で水素と化合させてメタンにして高炉に戻すというカーボンリサイクル高炉を開発し、これによって高炉からのCO2排出を半減することを目指しています。ほかにも開発中の技術は幾つもあるのですが、現時点ではどの技術が工業的に成立するのか予見できないため複線的に開発を進めています。
鉄鋼アルミ事業部門 事業戦略部担当
木本和彦 執行役員
神戸製鋼所・木本 当社は鉄鉱石を天然ガスなどで還元した直接還元鉄を海外で生産して日本の高炉で使う仕組みを作りました。ただ、このような取り組みは技術の優劣を競うことが目的ではないので、実現可能な技術から社会に提案していけばいいと私は思います。JFEスチールさんの技術で私たちが使えるものがあればいくらでも使いたいし、私たちの技術も使っていただきたい。アジアの鉄鋼業に貢献するためにも高炉を極めたい。
JFEスチール・手塚 当社の一つのチャンスが、27年に倉敷地区(岡山県)にある大型高炉が改修時期を迎えることです。これを大型で高効率の電気炉に入れ替えて、しかも一般鋼ではなくて高炉と同等の品質の高機能鋼材を作ることを実現するための、さまざまな技術開発をGI(グリーンイノベーション)基金のサポートを頂きながら進めています。先ほど神戸製鋼所の木本さんがおっしゃった還元鉄を使う仕組みも大きな目玉になります。将来を見据えて、伊藤忠商事、UAE(アラブ首長国連邦)鉄鋼最大手のEmirates Steel Arkan(エミレーツ・スチール)とジョイントベンチャーの検討を進めており、天然ガスや水素インフラが見込めるUAEでグリーンな還元鉄を作り、倉敷の電気炉で使うというのが一つの構想になっています。
神戸製鋼所・木本 2社さん共に電気炉というツールを使われていますが、しかし、主はまだ高炉であるというお考えだと思います。当社も電気炉の導入を検討していますが、30年までに現在稼働している高炉が寿命を迎えないため、切り替えの機会がありません。
とはいえ電気炉が増えると、原料となる鉄スクラップが不足する「鉄源」問題が起こる。電気炉化と鉄源問題とは表裏です。一定の量の鉄は鉄鉱石から高炉で作り続けなければ十分な鉄源が確保できない。恐らくそれでも足りなくなるので、次はどうするのか。当社は直接還元鉄というちょっと特殊な商品分野を古くから手掛けていて、世界の6割ほどのシェアを持っています。これがスクラップに変わり得ます。鉄鋼業が抱える鉄源不足問題に対して、当社は、米国100%子会社であるMidrex Technologies, Inc. (ミドレックス社)という直接還元鉄のプラントを販売する会社の技術で貢献できると思っています。
営業本部営業第一部長
石川隆一 執行役員
三菱UFJ銀行・石川 脱炭素社会に向けた技術革新でいきますと三者三様でいろいろやっておられる。最終的に実装化されたもの、スケール化されたものを共有していくという、このコンセプトを私たちもぜひサポートしていきたいと思っていますが、どの技術がデスバレー(難関・障壁)を越えていくのかは現時点では分かりません。だからこそ、われわれ金融機関にとってとても大事なことは、短期的な目線で勝ち負けを決めてダイベストメント(資金の引き揚げ)するのではなく、エンゲージメントを通じてお客さまと一緒になってカーボンニュートラルを実現していくというスタンスです。そして日本において、このスタンスには間接金融(銀行)がとても相性が良いと思っています。