現場の人手不足によって増え続ける労働災害

2023(令和5)年の労働災害(労災)による死傷者数は13万5371人と、前年を3016人上回り、3年連続での増加となった(休業4日以上の死傷者数、厚生労働省調べ)。死亡者数は755人(前年比19人減)で過去最低となったものの、工場や建設現場における労災は、相変わらず増加傾向が続いている。

もちろん、こうした状況に企業は手をこまねいているわけではない。1972年に労働安全衛生法が制定されて以来、特に労災リスクが高い製造業や建設業では、法令に基づく徹底した労働安全管理が行われるようになった。

にもかかわらず、労災の増加に歯止めがかからないのは、少子高齢化や労働人口の減少など、社会構造の変化があまりにも激しいからだ。

労働力人口の減少によって、製造や建設・土木の現場では慢性的な人手不足が続いており、1人当たりが担当する作業内容や作業量は増えている。しかも、これらの現場では納期が優先されがちなので、膨大な作業を「急いで行わなければ」という焦りが生じがちだ。これが作業員の注意力を奪い、思わぬ事故につながるケースが多いようである。

しかも、作業員の時間外労働には、24年度から年間960時間までという上限規制が設けられた。この「2024年問題」によって、限られた時間内に膨大な作業をこなさなければならない作業員の負担はますます増大し、事故の増加を招くことが懸念されている。

一方、人手不足を補うべく、現場経験が乏しいパート・アルバイトや外国人などを採用する企業が増えていることも、労災が一向に減らない原因の一つとみられている。

これらの作業員は、「どんな作業の仕方が事故につながりやすいのか?」という知識や経験が不足しているため、事故を起こしたり、巻き込まれたりする危険性が高いのだ。高齢化の急速な進展によって、指導や注意喚起を行うベテラン作業員が大量に引退していることも、現場の労働安全管理を脆弱化させる要因となっている。

さらに、定年の延長による作業員の高齢化、他の仕事を引退して作業員となる高齢者の増加なども、労災の増加傾向に拍車を掛けている。

先ほどの厚生労働省の調査によると、23年の労災による60歳以上の死傷者数は、全体の約3割の3万9702人にも上った。運動能力や判断能力が衰えやすい高齢者が、特に危険にさらされていることが分かる。

60歳以上の死傷者数の割合は年々拡大しており、特に高齢者向けの徹底した労働安全教育が求められているといえる。