そうした悩みが心身をむしばむ上、経済的な不安も大きい。しかも介護はいつまで続くか分からない。そんな状態で仕事に臨んでも、満足なパフォーマンスは期待できない。経済産業省が、仕事と介護の両立困難に起因する経済損失を約9兆円と試算した(図2)ように、ビジネスケアラーはもはや企業が無視できない社会課題となっている。
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介護のリスク回避は情報収集と早期介入が鍵
企業はビジネスケアラーにどう対応するべきなのか。政府が示した回答の一つが、25年4月に施行される改正育児・介護休業法。仕事と介護の両立支援を事業主に義務付けている。
「改正育児・介護休業法のポイントは、両立支援制度の個別周知・意向確認を企業に義務付けたことにあります。ライフスタイルが多様化する中、要介護者の状況だけでなくビジネスケアラーの生活も個別性が高くなってきました。社会全体の労働力人口が減少する中で、個別に相談しながら働きやすい環境を整えていくことが、一人一人のキャリア継続だけでなく、企業としての持続可能性の確保にもつながります」
とはいえ、実際に対応する企業の人事部門は、介護の専門家ではない。進め方が分からない場合はどうすればいいのか。石山教授は「まずは厚生労働省のウェブサイトで公開されている動画などのコンテンツを活用しては」と助言する。
「介護に関連して起きるリスクの多くは、事前の情報収集と早期介入によって回避できます。それは企業の両立支援においても変わりません。例えば管理職研修やコンプライアンス研修などにそうした動画を組み入れるのも一つの方法でしょう」
医療福祉学研究科
先進的ケアネットワーク開発研究分野責任者
石山麗子教授
国際医療福祉大学大学院 博士課程修了。知的障害児 入所施設、障害者職業センターを経て東京海上日動ベターライフサービスでシニアケアマネジャーとして 140人のケアマネジャーを統括。厚生労働省老健局 振興課介護支援専門官を経て2018年より現職。経済 産業省「企業経営と介護両立支援に関する検討会」委 員として「仕事と介護の両立支援に関する経営者向け ガイドライン」の策定にも携わる。
ただ、両立支援を実践するフェーズに至ると、さらに踏み込んだ内容が求められる。加えて石山教授は、両立支援に関するガイドラインに沿うだけでは、不十分だと指摘する。
「要介護者やビジネスケアラーだけでなく、企業にも多様性があります。ガイドラインは考え方の方向性や、多くの場合に共通する対応を示しています。働き方から環境、働く人まで千差万別なので、自社や社員の実態を把握して計画を立てる必要があります」