「両立」のあるべき姿をトップがまず理解する

では、どのように実態把握や支援計画を進めていけばいいのか。初期段階では、豊富な経験を持つ産業ケアマネジャーや両立支援の専門家のコンサルテーションを受けるのが望ましいと石山教授は話す。

「介護に対して『家の中でなんとかするもの』というイメージが根強くありますが、もうそんな時代ではありません。専門職が介入することで、状況の悪化を防いだり、改善の可能性を高めたりすることができるのです。企業の両立支援も、専門家に任せる部分は任せ、ビジネスケアラーが心身共にゆとりを持って働ける環境を整えることが大切です」

「介護は家族でやるべき」「仕事との両立は睡眠不足をいとわず頑張らなくてはいけない」といった旧来の価値観を取り除くのも、企業のビジネスケアラー支援の姿勢として重要なのだ。

「単に仕事をしながら介護もしている状態は、両立できているとは言えません。身体的、精神的、社会的、経済的に安定して過ごせているとビジネスケアラー自身が感じられて初めて、両立ができている状態と言えます。そのことを上司や経営者がしっかりと理解した上で両立支援に取り組めば、生産性の低下を防ぐだけでなく、安心感や信頼感の醸成によって従業員エンゲージメントも高まります」

そうなれば当然、企業価値も向上する。事業および組織運営のリスクマネジメントの観点からも、両立支援を経営戦略の中に位置付けることが効果的だということだ。

「例えば健康経営の一環として、経営会議などで両立支援の進捗を確認するなど、組織として施策を進めれば、ビジネスケアラーが心理的安全性を感じられる組織になっていくでしょう。加えて、介護に対する理解者を増やし、話しやすいコミュニティーを醸成することで、柔軟な働き方とキャリア形成を促し、人的資本経営を実現できるのではないでしょうか」

逆にそれができなければ、介護離職や労働生産性の低下など、負の循環に陥るリスクとなる。

「誰もがビジネスケアラーとなり得る今、両立支援の取り組みを進める企業が少しでも増えることが、日本の未来を明るくしていくと思っています」と石山教授が語るように、仕事と介護の両立支援は、人事部門の新たなタスクにとどめず、経営の持続可能性を高めるチャンスと捉えるべきなのではないだろうか。