英語環境で働く日本人にとってしばしば悩みの種となる、「スモールトーク」。英語で気軽な雑談ができずに、やきもきする人は少なくないだろう。そしてアメリカ文化では、この「雑談力」の欠如はビジネス上のハンデにさえなるという。人脈を築き信頼を得るために、必須のスキルなのだ。


 あなたがドイツ企業に籍を置き、海外駐在マネジャーとしてシカゴ支社に赴任したばかりだとしよう。会議の合間を縫って郵便物の管理室に立ち寄ったあと、手早くコーヒーでも飲もうと思っていた。

「デイビッド、調子はどうだい?」シニア・パートナーの1人から声がかかる。

「おかげさまで元気です、グリーアさん」。上級幹部との人脈を築きたいと常々思っていたあなたに、絶好の機会がやってきたようだ。しかし、何を言おうかと考えているうちに――そもそも、シニア・パートナーに話しかけること自体が適切なのかわからず気を揉んでいると――アメリカ人の同僚が唐突に割り込んできた。

「ところで、アーノルド――」。同僚は上司にそう呼びかけた。ドイツ人のあなたには信じ難い馴れ馴れしさである。「スーパーボウルは、どっちが勝つと思います? たしかナイナーズのファンですよね? MBAはバークレーで取ったんですか?」(訳注:フォーティーナイナーズの本拠地はサンフランシスコで、付近にはカリフォルニア大学バークレー校がある。)

 会話はどんどん進む。あなたはコーヒーカップを手にそそくさと席に戻った。アメリカではスモールトーク(雑談、ちょっとしたおしゃべり)が重要となる――わかってはいるが、それを上手に、何のためらいもなくやってのける同僚のような人がうらやましい。

 アメリカでは、職場でスモールトークが果たす役割は決して小さいものではない。アメリカに来た外国人は、雑談がいかに不可欠であるか思い知らされ、人々が――同僚や部下、グリーア氏のような上司とも、男女を問わず――ごく自然に気楽に言葉を交わす様子を見て驚くことが多い。たとえ世界一の技能を持つ従業員になれたとしても、アメリカではキャリアを前進させ組織の出世の階段を昇れるかどうかは、職場で好ましい人間関係を築き維持する能力にかかっている。では、そのために必要なスキルは何だろう? 雑談力なのだ。

 スモールトークを巧みに使う技術があれば、就職活動では潜在的な雇用者と素早く親密な関係を結べる。入社後は、同僚と親しくなり、上司と好ましい関係を保ち、クライアントやサプライヤーなど社外の仕事上のネットワークから信頼や敬意を得るために、雑談力が欠かせない。潜在的な雇用者、上司、クライアントにとって重要なのは、あなたが信頼に足る人物と感じられるかどうか、そしてあなたに好感が持て、一緒に働きたいと思えるかどうかだ。この目的を達成するうえで、雑談を通して他者との関係を形成する能力は必須となる。