急いては事を仕損じると承知でも、私たちはしばしば、仕事を早く片付けることを目的化してしまう。これは、脳の「作業記憶」と呼ばれるプロセスをリセットしたいと強く望んでいるからであるという。早まった行動(pre-crastination)に関する興味深い実験結果をお届けする。

 

「ためらう者は敗れる」という、よく知られた格言がある。この言葉が興味深いのは、起源が謎であることに加え、生産性に対して使うと非常に悪しき助言になってしまうということだ。最近の研究によれば、仕事を急いで終えようとすると、実際には生産性が低下するという。この現象は、プリクラスティネーションと呼ばれる(pre-crastination:早まった行動、急ぎすぎること。物事をぐずぐずと先延ばしにしてしまうprocrastinationの反対を表す造語)。タスクを終えることだけを目的とするあまり、かえって困難な道筋をたどってしまうということだ。

 この研究結果は、デイビッド・ローゼンバウム率いるペンシルベニア州立大学の研究チームによる9度の実験から明らかになったもので、「サイコロジカル・サイエンス」に発表された(英語論文)。実験では被験者(同大学の学部生たち)に、「通路に離して置かれた2つのバケツのうち、どちらかを選んでゴールまで運ぶ」という単純なタスクを与えた。バケツの選択に際しては、「より簡単にゴールまで運べるほう」を選ぶよう指示を与えた。9回の実験では各回でバケツの重さを変え(0~3キロ)、被験者の出発点からのバケツの距離も変えた(なお、左利きか右利きかで結果に影響が出ないよう調整された)。ただしほとんどの実験回で、2つのバケツのうち1つを格段にゴール近くに置いた。

 研究者らは、被験者が選ぶのはゴールに近いバケツだろうと予想していた。ところが驚いたことに、ほとんどの被験者が自分のいる出発点に近いバケツを選んだ。つまり、運搬が楽なほうを選ぶよう指示されていたにもかかわらず、彼らはほとんどの場合に労力を余計に使うほうを選んだのである。各実験回で学生たちに選択の理由を尋ねたところ、最も多かった答えは「早くタスクを終えたかったから」であった。

 学生のバケツ運びから一般論を導くのは強引すぎるかもしれないが、この研究結果は、多くの人々が取る行動の一面を反映している。私たちは常に、作業を早く終わらせたがる。これは作業記憶(ワーキングメモリー:複雑な認知作業を遂行するために、短期的に情報を記憶するプロセス)をリセットしたいからだ。研究者によれば、私たちはタスクを完了することで生じる解放感を強く求め、そのためなら特別な努力をするという。