Uberは最近、410億ドルの評価額で12億ドルを調達した。「不確実な環境における競争優位」の第一人者リタ・マグレイスは、その妥当性に疑問を呈しドットコム・バブルの再来を危惧する。

 

 2015年1月15日は、後に識者が口をそろえて「史上最悪だった」と語る合併劇の15周年記念日だ。2000年のこの日、当時スタートアップ企業だったAOLと由緒あるタイムワーナーの合併が発表された。そして今年は、AOLの創業30周年でもある。さらに、起業家ブームが起こるたびに私たちが悲しげに見返すことになる、ある重要な研究論文が世に出てから30周年に当たる。

 合併交渉が始まった当時、AOLは創業15年で株式公開からわずか8年にもかかわらず、投資家からの強い関心を集めていた――メディア大手のタイムワーナーを上回る時価総額が付くほどに。「かつてインストール用CDロムを大量にばらまいて巷に溢れさせ、度重なる混線で顧客の怒りを買っていた会社がタイムワーナーを手に入れるとは。世の中はこうも変わるのか」と思われたものだ。そう、これぞまさに市場の魔力である。

 当初この合併は、長らく言われてきた「コンテンツと配信チャネルの融合」が初めて実現した「革新的」な出来事として歓迎された。タイムワーナーはオンライン時代への対応という課題を一瞬にして解決でき、数千万人というAOLの顧客へのアクセスを手に入れる。かたやAOLは、タイムワーナーという人気ブランドの資産を全面的に活用すれば――常時接続のブロードバンドの存在が脅威になりつつあるとしても――ダイヤルアップ接続サービスの価値を高められる。この合併は新たな潮流なのかもしれないと考えた他の企業も、同様の合併をすべきか検討した。

 そのような成果を上げるには、合併後に両組織の社員は縦割りの壁を越えて協力し合い、共に歩まねばならなかった。ところが不幸にも、両者は憎み合うことになる。はじめはよくある摩擦で、互いの組織文化に対する抵抗感にすぎなかった。やがてITバブルの崩壊によってAOLタイムワーナーの時価総額が2260億ドルから約200億ドルに急落し、2002年には990億ドルに及ぶ営業権の減損を計上。冷徹なウォール・ストリート・ジャーナル紙でさえこの数字を「衝撃的」と表現した。すると、両陣営の齟齬は敵意丸出しの確執へと発展したのだ。

 私たちは過去から学習した、ドットコム・ブームの投資家のような常軌を逸した企業評価をしないはず――本当にそうだろうか? だとしたら、配車サービスを提供するUber(ウーバー)の410億ドルという評価額を、どう説明すればいいのだろう。専門家の指摘では、アメリカのタクシーおよびリムジン産業全体の年間総収益は110億ドルだというのに。