――新刊の『無冠の男 松方弘樹伝』は、病に倒れる前に行った長時間インタビューが基になっています。彼の生い立ちから将来の展望までを扱った人間ドキュメントであると同時に、時系列で芸談をまとめていることから戦後の大衆芸能史として楽しむこともできます。共著者としては、どのような人に読んでほしいですか。

 読んでほしいと言うか、まずは本書を手に取っていただきたいです。

 やはり、50~60代の男性で、若い頃に東映任侠映画が好きで映画館に通っていた世代の人たちです。さらに、これから手に取っていただきたいのは、過去に映画を観るという習慣がなかった人で、大人になってから仕事や生活などでさまざまな問題に直面しながら、何とかして乗り越えようと奮闘している現役世代の男性と女性です。

 と言うのも、松方弘樹という役者の人生は、「これでもか、これでもか」というほどに逆境のオンパレードだったからです。世間の彼に対するイメージには、「ヘラヘラした軽薄な俳優」「女出入りが激しい」「浮気がばれてパイプカット手術に追い込まれた」「計2回の離婚で約15億円もの慰謝料を支払った男」などがあると思います(笑)。

 しかしながら、役者として、自らの芸に磨きをかけるということに対しては真剣そのもので、独自の“役者道”を追求し続けました。自らの意思とは関係ない時代の状況などに振り回されて、何かを掴めそうになったとたんに滑り落ちたり、掴んだら今度は後ろから突き落とされたりしながら、けっして腐ることなく芸を磨き続けました。確かに、女遊びをしながらでしたが、逆境にありながらも諦めずに何度も何度も這い上がってきた“人間の記録”として、松方弘樹の人生には学べるところがたくさんあります。

 誰でも仕事や生活で思うようにいかない時に、時代のせいにすることや、上司のせいにすることがあるでしょう。ところが、松方弘樹の場合は、そうした状況下にあっても、常に前のめりの姿勢を崩さずに、純粋に芸を磨くことだけを考えていました。そもそも人間的に愛すべき魅力のある人物だったから、女性にモテたのです。また、仲間内の面倒見がよかったので、大部屋俳優(端役やエキストラ役)からも慕われていました。

最初から特別扱いされるも
辛酸を舐め続けさせられる

――若い世代は、松方弘樹という役者をよく知りません。「自らの状況とは関係ない時代の状況などに振り回されて」という点について、もう少し詳しくお願いします。

 そうですね。では、順を追ってお話ししましょう。