内田医師と対談する森上展安・森上教育研究所代表。カモスタットは基本的には毎食後1錠服用する。人混みなど感染の可能性が高い場所に行く際には1回2錠も可

明らかにされた新型コロナウイルスの侵入経路

 2002年冬から大流行した同じコロナウイルスであるSARS(重症急性呼吸器症候群)と対比しながら、論文の概念図では、新型コロナウイルスがヒトの細胞内に侵入する過程が示されている。

 ウイルスは遺伝子である核酸の周りをたんぱく質の殻が覆った構造になっている。これがヒトのたんぱく質「ACE2」と結合した後、その細胞膜上にあるたんぱく分解酵素「セリンプロテアーゼ」の一種であるTMPRSS2と手を取り合うような形で、ヒトの細胞内に侵入することにより、ウイルスに感染するのだ。

内田義之(うちだ・よしゆき)
内科医、日本呼吸器学会指導医(医学博士)。医療法人社団重陽理事長、さんくりにっく院長。1955年東京生まれ。麻布学園高校、筑波大学医学専門学群を経て、同大学院博士課程医学研究科生理系呼吸器内科学進学。ジョンズホプキンス大学フェロー、ウェイン州立大学リサーチアソシエイト。茨城県内の病院に勤務、2001年には日本の医学系大学ベンチャー第1号「プロジェクトユー」の代表取締役社長も務めた。NPO法人化学物質による大気汚染から健康を守る会(VOC研究会)にも参加している。呼吸器と感染症のエキスパート。

 感染を防ぐためにはTMPRSS2の作用を抑制すればいい。カモスタットメシル酸塩がそうした作用をする薬剤として可能性を持つことが論文では示唆されていた。この薬剤は小野薬品工業から「フオイパン」という製品名で1985年に商品化されている。

 用法としては、慢性膵炎や術後逆流性食道炎が挙げられており、膵臓から分泌されるたんぱく分解酵素の働きを抑える作用がある。「カモスタット」という製品名で他社からも発売されているジェネリック医薬品であり、薬価は低い。

 臨床医はいまそこで苦しんでいる患者のために全力を尽くす。以前からカモスタットのインフルエンザへの適応を訴えていた内田医師は、3月10日頃から、新型コロナウイルス感染が疑われる患者に処方するようになった。

 40度以上の高熱が4~5日間続き、呼吸障害も起こして苦しんでいたのに、保健所からは検査が許されず、診断がつかなかった20代前半の女性患者に処方したところ、熱が低下し、元気になったことでその効果を実感した。

 発売からの35年間で、カモスタットの主な副作用として報告されているのは、かゆみ、発疹、吐き気、腹部不快感、腹部膨満感、下痢などだが、すでに200件を超えている今回の投与では、重篤な例は報告されていないという。

 現状では、カモスタットは肺炎への適応では承認されていないため、健康保険が適用されない。医師による処方薬なので薬局で処方箋なしに購入することはできない。また、用法が示すように大人向けで15歳以上が対象となっている。

 さんくりにっくでは希望者に対応できるので、まずは相談してみたらいかがだろうか。連絡先のEメールは、office-sun@healthcarenet.jpとなっている。