
大迫弘和校長
「新しい人間力」「新しい学力」
二つを融合させた「海城知」
2023年4月、第14代校長として海城に着任した大迫弘和校長。詩人としても活動し、数々の詩集を世に送り出してきた経験を生かし、着任直後から海城の教育の理解に努め、学校が目指すものの「言語化」を試みてきた。
「詩人として生きてきた私ができることとして、すでに海城が行ってきた教育に言葉を与え、その意味や価値を皆が認識できるようにしたいと思いました」
そうしてできた言葉の一つが「海城知」だ。
海城はこれまで、コミュニケーション能力や創造力などの「新しい人間力」と、課題設定・解決能力を指す「新しい学力」をバランスよく養う教育を実践してきた。
「新しい人間力」の育成に当たっては、立木や丸太、ロープなどを使った活動にチームで取り組む「プロジェクトアドベンチャー」や、演劇の手法を用いて登場人物の身になって感じたり、効果的なプレゼンテーションの手法を学んだりする「ドラマエデュケーション」に取り組んできた。
授業では「新しい学力」を養うため、生徒参加型のスタイルを積極的に導入。自らテーマを設定し、取材や文献調査、ディスカッションを通じてレポートを執筆する社会科総合学習や、実験・野外観察を多く取り入れた理科の授業が特徴的だ。大迫校長は「優れた専門性を持った教員の授業を、優秀な生徒たちが一生懸命聞いています。それぞれの生徒が知識の暗記だけでなく、関心を持ったことを探究して学びを深めています」と語る。
そんな「新しい人間力」と「新しい学力」の二つを融合した、人間としての総合知が、大迫校長が命名した「海城知」だ。これまで海城の教育を担ってきた教員からも「私たちが今まで取り組んできたことを何一つ否定していない素晴らしい言葉だ」と好評で、大迫校長は「教員にも生徒にも、海城でしか育めない力があるという自負や誇りを持ってほしい」と期待を寄せる。
海城でしか育てられない力を育てる――。その思いは大迫校長が編み出したもう一つの言葉「唯一無二の進学校」というフレーズにも表れている。
海城は、東京大学をはじめとする国内の名門大学や、海外大学に多くの生徒が進む国内有数の進学校だが、大迫校長は「数で評価される学校からは脱したい」と願う。「海城でしか育てられない、人間としての優しさや強さ、他の人に尽くす気持ちを6年間かけて育んでいきたいと思っています。進学実績などの数字を目標とする学校ではなく、自分の力を社会のために使う生徒を育て、送り出す学校でありたいのです」。
国際バカロレア教育の国内第一人者として知られ、千里国際学園中等部高等部校長、同志社国際学院校長などを経て、海城に着任した大迫校長。かつての教え子から突然『教育の詩人』というタイトルの「テーマソング」をプレゼントされるほど柔和で親しまれる性格ということもあり、130年超の歴史を持つ伝統校の海城にも自然に受け入れられた。教員や生徒、保護者からの信頼は厚い。その信頼の根底にあるのは、学校を深く知り、教員や生徒と積極的に交流しようとする大迫校長の姿勢だ。着任直後から時間があれば授業を見学し、100人を超える教員・事務職員と面談。それぞれの教職員が教育に懸ける思いに触れるこの時間は、毎年春の恒例となっている。また、普段から校長室のドアを開け、中にはグランドピアノを設置。生徒がストリートピアノのように弾きに来るので、自然に校長と生徒との会話が生まれる。先日は校長室で、高3の生徒2人によるミニミニコンサートも開かれたという。
「海城知」と書かれた書を持ってほほ笑む大迫校長の等身大パネルやシールも作られ、受験生からも人気を集めていることも、大迫校長が編み出した言葉と教育姿勢が海城に自然と溶け込んでいることの証左といえるだろう。