一般選抜入試だけが道ではない!
――大学進学も含むキャリア教育という観点ではいかがですか。
水野 これからの教育をどうするかと考えたとき、どういう将来を歩んで行くかの目標を固めるというよりも、そのために柔軟に変化していくプロセスが大事だと考えています。つまりレジリエンス。世間の大人はこの職業はいずれなくなるぞとか子どもに脅しをかけているような社会状況ですが、目標をよりよく変えることができる柔軟性を身に付けさせてあげたい。
――具体的にはどのような取り組みを?
水野 個人的なつてで幾つか講演会を行いました。検事総長を務めた林眞琴氏が高校の同級生だったので、学校で講演してもらいました。第二部は図書館で生徒は質問攻めにしていましたが、ことごとく論破されていました(笑)。同じく講演をお願いした産業能率大学元学長の宮内ミナミ氏も高校の同級生です。
修学旅行先のベトナムと台湾に関しては、ベトナム駐在経験のある時習館高校の卒業生とベネッセの台湾元支社長にも講演をお願いしました。
――人脈を生かしていらっしゃる。難関国公立大に一般選抜入試で挑む一方で、近年では自己推薦型や学校推薦型の非一般選抜入試の比重が大きくなっています。
水野 難関大学を目指した幼稚園から高校まで明星の生徒のことは、とても印象に残っています。生徒には変化する力が備わっています。1か月も対話するうちに、ものすごくコミュニケーション能力が上がり、「君を落とすような大学は思い浮かばない。君が落ちたら受かる人間はいないから」と言わせられるくらいになりました。ある程度の基礎学力があれば、大学が見ているのは、その生徒がいま持っている力よりも変化する力だからです。
キャリア教育という観点では、私は生徒が読書を通して自分の内面を鍛えることが一番大事だと思っています。
――明星中高にはすごい図書室がありますね。陳列も工夫されている。
水野 8万冊とか。前任校で読書指導している中で、「先生、もう駄目です。一般選抜に切り替えます」という生徒が出てきました。昔の進路指導の先生の口癖は「AO(総合型選抜)に逃げるな!」でしたが、私は逆で、「一般選抜だけが道ではない!」と言っています。「一般選抜は受験勉強すれば通るけれども、総合選抜は読書が必須。読書体験を重ねて合格できれば、大学に入ってから全然違うから」と。
実際、そうやって合格した生徒が言っていました。「周りの学生は本が読めないんです。私は読書指導のおかげで、本を読むのが全然苦じゃありません。大学での学びが楽しくて仕方ありません」。
――そうした学び方は時代に合っていますね。
水野 入学してから伸びるようなことを何かしてあげたい。私には教員としてのキャリアもないので、それくらいしかできませんし。昨年、4人の先生方と一緒に高3が対象で「読書探究ゼミ」を開きました。こちから生徒の指名はしませんでしたが、40人ほど集まりました。
(続く)