オバマ政権への事実上の信任投票となる米中間選挙は、上院では与党・民主党が過半数を死守したものの、下院では野党・共和党が4年ぶりに過半数を奪取、民主党が60議席以上を減らす歴史的敗北に終わった。敗因は何か。オバマ政権はいかなる政策課題を抱えたのか。そして2年後に控えた大統領選挙の行方は。(「週刊ダイヤモンド」副編集長 遠藤典子)

藤原帰一 東京大学法学政治学研究科教授<br />「オバマ再選困難な情勢も<br />茶会派に有力候補なし」藤原帰一(Kiichi Fujiwara)
1956年生まれ。東京大学法学部卒業後、同大学院博士課程単位取得中退。その間、フルブライト奨学生として米イェール大学大学院に留学。東京大学社会科学研究所助手、同助教授などを経て、99年より東京大学法学政治学研究科教授。専門は国際政治、東南アジア政治。著書に『平和のリアリズム』(岩波書店、石橋湛山賞)、『映画のなかのアメリカ』(朝日新聞社)など。
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──民主党大敗の原因は。

 まず、一般論からいえば、中間選挙においてはもともと与党が不利な立場に置かれる。日本の参議院選挙と類似していて、中間選挙は政権選択の選挙ではないために政府批判が強く出る傾向にある。

 次に、経済情勢である。かねて指摘しているとおり、経済が悪ければ与党は票を失う。これはほとんど法則のようなものだ。なかでも雇用情勢の悪化に世論は最も反応する。米国経済はオバマ政権下の2年間で好転するどころか二番底をうかがう様相であり、雇用環境は好転していない。もともと与党に不利な選挙が、不況でさらに苦しくなったという構図である。

──オバマ政権の支持率はすでに低迷していた。

 医療保険制度改革、事実上の国民皆健康保険制度導入で支持率が低下した。これはもともと党派性の高いテーマであるため、支持率低下は政権にとって織り込み済みだった。だが、予想外だったのはこの法案が可決したのが今年3月と、想定以上に審議に時間を費やしてしまったことだ。それが有権者の支持を獲得するための雇用対策を遅らせる結果となった。

 民主党の伝統的支持基盤は雇用環境に最も敏感である。この伝統的顧客の確保に失敗したことが、最大の要因である。

──共和党躍進の理由は。

 ティーパーティ(茶会運動)の存在を無視することはできまい。共和党のなかでも政府批判が最もはなはだしく、もっといえば政府の存在自体が悪であり、その役割を極小化すべきだという極端なイデオローグである。彼らの支持候補はフロリダ、ウィスコンシン両州などで議席を獲得した。ティーパーティの理論的支柱は大統領選挙への出馬経験もあるテキサス州のロン・ポール上院議員、そしてシンボルは先の大統領選で共和党の副大統領候補として戦ったサラ・ペイリン・アラスカ州知事である。

 もともとワシントン不信は米国世論に根強く、不況下にはワシントンにもっとカネを出せという議論が一方にあるとすれば、ワシントンの政策はすべて間違っており、なにもしなければ、経済はうまくいくという議論もある。ポール氏は金融危機においても財政支出は不要と訴えており、それは政府への不信感が強い人びとには非常に説得力があった。