最近、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に関する議論が白熱している。わが国の将来に大きな影響を与える重要な問題について、様々な意見を持った人が議論を戦わせることは、悪いことではない。

 しかし、TPPについて無視できない懸念がある。先日政府は、農業分野を含めた原則関税撤廃を目指す協議開始の基本方針を閣議決定したが、現在の民主党政権がしっかりした政治のリーダーシップを発揮して、明確な解決策を国民に示すことは、難しいと言わざるを得ない。

 ひとことで言えば、現政権にこの問題に対峙する十分な能力があるとは考えにくいのである。

 この問題については、おそらく積極推進派の産業界と、絶対反対を唱える農業関係者の狭間で、しっかりした方針を打ち出すことができず、うやむやのうちに何らかの妥協案で落ち着く可能性が高い。

 国内の議論が迷走を続けている間、世界の趨勢は自由貿易の方向に向かっている。その流れに乗り遅れ始めているわが国は、今回のチャンスを逃すと取り返しのつかないほどのハンディキャップを背負うことになりかねない。

 国内の農業改革を先送りする一方、産業界の競走力をすり減らす。その結果、わが国は徐々に国力を落とし、世界の一流国からドロップアウトする。そうした「悲観的なシナリオ」が、現実味を帯びてくる。

政府にTPPに対峙する能力はあるか?
「自由貿易のバス」に乗り遅れてはならない

 現在、情報・通信技術の発達によって、世界経済のグローバル化は一段と加速し、物理的な国境の垣根は著しく低下している。そうした流れに呼応して、世界の主要国は貿易の自由化の流れを促進している。