「この国のかたち」を決める選択を、日本経済を構成するおよそ10%程度の既得権集団が左右していいものだろうか。

 環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を巡って、農家と農家に関わる数多くの企業、団体、政治家、官僚が必死の抵抗を試みている。

 日本の国内総生産(GDP)における農業の比率は、わずか1.5%に過ぎず、極めて小さい。ただし、関連産業が多数存在する。土木、建設、機械、肥料、飼料…それらすべてを合計すれば、「GDPの10%程度に膨れ上がるだろう」と浦田秀次郎・早稲田大学院教授はみる。

 このGDP10%の構成員たちは、政治においてはその数倍もの力を発揮する。彼らは主に地方に根を張っており、全国農業協同組合連合会(農協)を核として結束力が強く、選挙における投票率も高い。自民党政権時代には、地方出身の農林族を支配し、農林水産省を含めて既得権のトライアングルを構成し、強力な存在感を発揮した。

 近年は、就農人口の減少に加え、政権交代などで農協の組織率の低下とともに政治力に陰りを見せていたのだが、「TPPを絶好のチャンスと捉え」(官邸関係者)て、農業関係者の危機を煽り立てることで再び結束、圧力団体としての力を取り戻しつつある。その凄みに、にわかに菅政権がたじろいでいる。

 復習しておこう。

 TPPの最大の特徴は、関税撤廃に原則として“例外を設けない”ことにある。原則100%の貿易自由化なのである。この点が、二か国・地域間で結ぶ自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)と決定的に違う。FTAはモノやサービスなどの貿易上の関税などの障壁を取り除く協定だ。EPAはFTAを柱に、さらに労働者の移動の自由や投資規制の撤廃などを盛り込んだ協定である。