ここ1年、競合のヤマダ電機から池袋や新宿の重要拠点で大攻勢を受けたビックカメラだが、同店舗の売り上げは、落ちるどころか増収となった。ピンチをチャンスに転換したのは独特の集客力を発揮したためだ。その背景にある創業以来の“スポ根文化”と、激戦を勝ち抜こうとする事業改革とを明かす。(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

Photo by Toshiaki Usami

 ここ1年、都市型家電量販店のビックカメラの重要拠点は、激烈な競争を強いられてきた。昨年10月には同社の牙城である池袋に、今年4月にはすでにヨドバシカメラとしのぎを削る新宿に、ヤマダ電機が相次ぎ殴り込みをかけてきたのだ。家電量販店業界断トツ1位の“売上高2兆円企業”の出店とあって、業界5位のビックカメラの行く末が案じられた。

 結果ビックカメラはどうなったか。現段階では、売り上げを落とさずにすんでいる。2010年8月期の両地区の売上高は、どちらも前年比5%前後増加した。

 原因の一つは、「郊外からいらっしゃるお客様が多くなり、明らかに商圏が広がった」(塚本智明営業本部長)ことにある。しかし、そもそもビックカメラに競争激化に対する危機感はなかったという。単に商圏拡大による市場の活性化を見込んだからではない。「品揃えや親切ていねいな接客など、お客様第一主義でやってきたこれまでのノウハウがある」(同)という自信があったからだ。

 ノウハウの源泉には、たとえば、家電の専門職を認定する「専門相談員制度」がある。1996年に導入された自社資格制度で、この制度の試験に合格した者だけが、「専門相談員」の腕章を着けることを許される。

 試験は筆記や面接はもちろん、評価の対象としてリーダーシップの素養まで見られる。専門相談員は、勤務時間内に勉強会を開催して他の販売員と知識を共有することが重要な任務の一つとされているからだ。時には一対一で、時には自分の担当商品以外の販売員まで動員し、レクチャーや販売指導などを行う。
都市型の家電量販店は駅前などに立地することから、ふらりと立ち寄る顧客が多い。そのため、豊富な品揃えと、顧客のニーズに合わせたきめ細かい接客が求められるのだ。