「ウサギとカメ」と出世競争。童話35編をビジネス視点で読む

要約者レビュー

 これはまた面白いコンセプトのビジネス書だ。本書『ビジネスマンのための新しい童話の読みかた』は大まかに二つに分かれており、一章と二章では有名な童話の「再解釈」から、三章以降はあまり知られていない童話から、それぞれビジネスや人生における教訓を引き出すという構成になっている。

 本書と一般的なビジネス書の最大の違いは、童話という「物語」が多数組み込まれていることだ。童話は雄弁に私達にメッセージを伝えてくれる。これまで3000人以上の著名人へのインタビューを行ってきた著者も、それまで知らなかった童話の中に、これまで自分が得てきた学びが、より伝わりやすい形で含まれていたことに驚きを隠せなかったという。それが長い年月を生き残ってきた童話が持つ力なのだろう。

 また、童話の再解釈はその行為自体が、一つの思考実験として大変スリリングなものだ。私達の持つ常識の土台には、幼い頃に繰り返し読んだり聞かされたりした童話や昔話の存在がある。その解釈を疑い、検証して見直すということは、自分の常識を根底から見直すということに繋がる。

 著者の解釈を楽しむのもよし、それに刺激を受けて自分なりの解釈をしてみるもよし。いずれにせよ本書が知的好奇心を刺激してくれることうけ合いである。物語に触れる機会が少なくなってきている人や、そもそも物語を読むことの意義が見いだせない人にとっても、手に取る価値が十分にある一冊といえるだろう。 (石渡 翔)

著者情報

上阪 徹(うえさか・とおる)
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。リクルート・グループなどを経て、フリーランスのライターとして独立。経営、経済、就職など最先端のビジネス現場から、トップランナーたちの仕事論をわかりやすく伝えるインタビュー、執筆を得意とする。取材相手は3000人を超え、自らが聞き出した成功者のエッセンスを伝える講演活動も行う。
著書に『成功者3000人の言葉』(飛鳥新社)、『職業、ブックライター。』(講談社)、『リブセンス〈生きる意味〉』(日経BP社)、『なぜ今ローソンが「とにかく面白い」のか?』(あさ出版)など多数。他の著者の本を取材して書き上げるブックライター作品も60冊以上に。
公式ウェブサイト http://uesakatoru.com