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いま世界の哲学者が考えていること
【第14回】 2016年10月20日
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岡本裕一朗

グローバル資本主義が抱えるたった一つの限界とは

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世界の哲学者はいま何を考えているのか――21世紀において進行するIT革命、バイオテクノロジーの進展、宗教への回帰などに現代の哲学者がいかに応答しているのかを解説する、哲学者・岡本裕一朗氏による新連載です。9/9発売からたちまち重版出来(累計3万部突破)の新刊『いま世界の哲学者が考えていること』よりそのエッセンスを紹介していきます。第14回は世界を席巻したかのように思えるグローバル資本主義が抱えている、あるパラドックスについて概観します。

グローバル資本主義の本質的限界

フランシス・フクヤマはかつてマルクス主義にもとづいて建設された国家の崩壊を想定して、「歴史の終わり」を説きました。社会主義は資本主義によって乗り越えられ、今日にいたるまでグローバル資本主義はその隆盛を誇っているようにも思えます。しかし、ここであらためてグローバリゼーションに立ち戻ってみましょう。というのも、グローバリゼーションには、きわめて深刻な「パラドックス」が潜んでいて、その理解なくして未来世界を展望できないからです。

トルコ出身の経済学者で、現在はプリンストン高等研究所の教授であるダニ・ロドリックが、2011年に『グローバリゼーション・パラドクス』を出版し、グローバリゼーションにどう対処すべきか、議論を展開しています。彼によると、次の三つの道(「トリレンマ」)が可能であり、私たちはこの中から選択しなくてはならないのです。

国民民主主義とグローバル市場の間の緊張に、どう折り合いをつけるのか。われわれは三つの選択肢を持っている。国際的な取引費用を最小化する代わりに民主主義を制限して、グローバル経済が時々生み出す経済的・社会的な損害には無視を決め込むことができる。あるいは、グローバリゼーションを制限して、民主主義的な正統性の確立を願ってもいい。あるいは、国家主権を犠牲にしてグローバル民主主義に向かうこともできる。これらが、世界経済を再構築するための選択肢だ。
選択肢は、世界経済の政治的トリレンマの原理を示している。ハイパーグローバリゼーション、民主主義、そして国民的自己決定の三つを、同時に満たすことはできない。三つのうち二つしか実現できないのである。

つまり、(1)「もしハイパーグローバリゼーションと民主主義を望むなら、国民国家はあきらめなければならない」。あるいは、(2)「もし国民国家を維持しつつハイパーグローバリゼーションも望むなら、民主主義のことは忘れなければならない」。そして、(3)「もし民主主義と国民国家の結合を望むなら、グローバリゼーションの深化にはさよならだ」。

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岡本裕一朗[玉川大学文学部教授]

1954年、福岡に生まれる。九州大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。九州大学文学部助手を経て、現在は玉川大学文学部教授。西洋の近現代思想を専門とするが、興味関心は幅広く、領域横断的な研究をしている。
著書に、『フランス現代思想史―構造主義からデリダ以後へ』(中公新書)、『思考実験―世界と哲学をつなぐ75問』『12歳からの現代思想』(以上、ちくま新書)、『モノ・サピエンス―物質化・単一化していく人類』(光文社新書)、『ネオ・プラグマティズムとは何か―ポスト分析哲学の新展開』『ヘーゲルと現代思想の臨界―ポストモダンのフクロウたち』『ポストモダンの思想的根拠―9・11と管理社会』『異議あり! 生命・環境倫理学』(以上、ナカニシヤ出版)、共著に『ヘーゲル入門』(河出書房新社)、『差異のエチカ』(ナカニシヤ出版)、共訳にトマス・ネーゲル『哲学ってどんなこと?―とっても短い哲学入門』(昭和堂)などがある。


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